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第13回 南のシナリオ大賞

更新日:4月1日

 

第13回 南のシナリオ大賞 結果発表


第13回南のシナリオ大賞 結果発表
第13回南のシナリオ大賞 結果発表

 

南のシナリオ大賞


  • 「はるしぐれ」伊吹 一(東京都)


 

優秀賞


  • 「沼子の人生」日高 真理子(福岡県)

  • 「パラダイス・ロスト―この世の果ての物語」荻 利行(東京都)

  • 「さらさら願い」なないろ みほ(東京都)


 

一次選考通過作品


一次選考通過作作品(朱色は二次審査通過作品)

応募総数

主催

選考会

第13回最終選考ドキュメント

第13回二次審査通過作品

第13回一次審査通過作品


 

大賞 「はるしぐれ」 伊吹 一


大賞 「はるしぐれ」 伊吹 一 (東京都)
大賞 「はるしぐれ」 伊吹 一

受賞者のことば

伊吹 一 (東京都)


連絡があったのは、午後の4時過ぎでした。辺りはすっかり秋めいていて、5.5畳のワンルームには無駄に心地よい風が吹き込んでいましたが、外はもう夕方から夜になろうとしていました。


ぼんやりと、「自分が脚本家として生きるなんて、アイドルと付き合いたいといった妄想と同じなんじゃないか」と思っていたところに、知らない連絡先から電話が来ました。クレジットカードが引き落とせていないとか、良くて電話料金引き下げの勧誘かと思いましたが、ぼんやりしていたので電話を取ってしまいました。まさかの連絡でした。


脚本家として生きるという妄想が現実になるかは分かりません。ですが、2019年の秋の夕暮れに受けたこの連絡は、僕の手の中に感触として残り続けるたしかな希望です。この希望を胸にしまい、妄想を現実にするためにこれからもあがき続けます。


『はるしぐれ』を大賞に選んで下さり、本当にありがとうございます。


一人でも多くの方にこのお話が届きますように。


「はるしぐれ」 あらすじ


東京駅を出発し、博多駅に向かう深夜バスの車内。女は、隣に座っている男が3年前同棲していた男であることに気づいていた。しかし、男の方はそのことに気づいていない。男は、女と同棲していた3年前に精神疾患が原因で、記憶喪失になったからだった。


男は女に借りた充電器を返す。女は男に何の曲を聴いていたのか尋ねる。男は雨の音を聴いていた。医師に勧められて聴いているとのこと。男のイヤホンで雨の音を聴く二人。


サービスエリアに着く。女は男が好きだった自販機で売っている焼きおにぎりを買い、二人で食べた。男は、ある女性とサービスエリアで焼きおにぎりを食べたことを思い出し、その話を女にする。女は、それまで病気に気づけなかった自分を責めていたが、男が自分を恨んでいないことを知る。ただ、男が女を思い出すことはなかった。


雨が降る。男に雨の名前を聞く女。その雨の名前は、春時雨(はるしぐれ)だった。


 

優秀賞 「沼子の人生」 日高 真理子


優秀賞 「沼子の人生」 日高真理子(福岡県)
優秀賞 「沼子の人生」 日高真理子

賞者のことば

日高 真理子 (福岡県)


この夏私が生み出した『沼子』は、中高年の引きこもりとその老親の悲哀を描くための主人公だ。自分とはかけ離れたキャラクターのつもりだったが、書き進めるうちに意外なほどに愛着が湧き、沼子の『沼』にドップリとハマってしまった。


沼子は元々明るくて愛想も良く、それなりの美人でお洒落も好きだったに違いない。名前だって気に入っていた(かもしれない)。でも信じていた幸せが崩れ去った時に、人生の歯車が狂っていってしまった。誰でもそうなるかもしれない、ちょっとしたつまづきで。そう、私だって。沼子は特別な人間じゃない。


ラストの台詞に、母の想いとそれに応えられなかった悲しみ、沼子の人間らしい感情のほとばしりを描いたつもりだ。


優秀賞に選んでいただき、誠に有難うございました。シナリオ塾の先生方、仲間たち、温かく厳しいダメ出しに感謝しております。




「沼子の人生」 あらすじ


20年間2階の自室に引きこもる沼子(48)。毎日の食事をドアの前に置くのは母芳江(71)だ。


ある日、食事が無く沼子は階下に降りる。そこへウィーン在住の甥、智樹(25)とカタリナ(25)が現れ芳江の死を告げる。芳江は夫妻と食事中、心臓発作を起こしたのだ。だが沼子は平然とカップ麺を食べ智樹達は戸惑う。葬儀屋とのやり取りで、沼子は姉の玲子(智樹の母)への憎悪を露わにする。


カタリナと智樹はハネムーンの予定を変更し、沼子を気遣う。悪態を尽きながらも僅かに心が和らぐ沼子。無意識に母を偲ぶ歌を口ずさむ。


そこへ玲子(49)から電話がかかる。昔、恋人の悟を奪われた恨みをぶつける沼子。悟は今、玲子の夫だ。仲直りしようと言う玲子を拒絶し、電話を切る。母は姉妹の仲直りをどんなに願っていただろう。そして引きこもりの自分が部屋から出てきたらどんなにか喜んだだろう……母の遺体を前に悲しみが溢れる沼子だった。


 

優秀賞 「パラダイス・ロスト―この世の果ての物語」 荻 利行



優秀賞 「パラダイス・ロスト―この世の果ての物語」荻 利行さん
優秀賞 「パラダイス・ロスト―この世の果ての物語」荻 利行

受賞者のことば

荻 利行 (東京都)


このたびは優秀賞に選出していただき、ありがとうございます。


二十五年ほど前、沖縄の音楽に触れて、沖縄にはまりました。そして、もともとラジオドラマ好きなこともあり、四年ほど前から「憧れの沖縄」をテーマに南のシナリオ大賞に向けてシナリオを描きはじめました。


しかし「憧れ」だけでは満足のいくシナリオは完成せず、路線変更したものを応募するか、応募自体をしないかのどちらかでした。そこで今回は地に足をつけて「沖縄の感情」を描こうと思い、脳内シナハンを始めました。


すると、誰もいなくなった島で暮らすケンとハル、そして島袋サキというおばあと出会ったのです。彼らの日々を綴ることで、四年越しの沖縄のシナリオが完成しました。


これも沖縄やシナリオで、関わっていただいた皆さんのお蔭です。ありがとうございます。特にいつもシナリオを書くことに理解を示してくれる妻に。似顔絵は次男の力作です。



「パラダイス・ロスト-この世の果ての物語」 あらすじ


おばあとハルとケンは3人しかいない島で自給自足の生活を送っていた。ある日、ケンは、自分たちの事を知る人は誰もいないんじゃないかと寂しさを覚え、他人と話したい、島から出てみたいと思うようになる。


しかし、おばあは人に会う必要もないし、島から出たら罰が当たるとケンに言う。ケンは洞窟で見つけた人骨にさえ他人に会えた喜びを感じ、とうとうおばあの言いつけを破り、月二回、船で荷物を運びに来る金城のおじいに会いにハルと港に行ってしまう。


しかし、港に来たのは、若い漁師の末吉だった。末吉はこの島にはおばあしかいないと聞いていたが、なぜか、男の子と女の子(ケンとハル)が古い八重山言葉を喋り、船に乗りこむのに恐怖を覚え、石垣島に無線を入れる。すると大勢の警官が来て大騒ぎとなり、おばあは二人のおばあではない事がわかる。三人の楽園のような島の生活も終焉を迎えた。


 

優秀賞 「さらさら願い」 なないろ みほ


 

優秀賞 「沼子の人生」 日高真理子(東京都)
優秀賞 「沼子の人生」 日高真理子

受賞者のことば

なないろ みほ (東京都)


私の作品を読んでいただいた審査員の先生方に御礼申し上げます。


シナリオを学び始めて、2年目のふしめに、このような素晴らしい賞をいただくことができまして、大変に感動しております。


「さらさら願い」は、大分県に4泊5日シナリオハンティングをして作った作品です。


大分県といえば、別府や湯布院などの豊かな温泉が有名です。しかし、実は河童の伝説が多く残っており、祭りも催されるほどです。作品が受賞することで、お世話になった大分県の皆様に恩返しができたでしょうか。


私にシナリオを書く喜びを教えてくれたシナリオセンターの河合先生、上原先生、温かくも鋭い意見をくださる新井先生、いつも私を励まし続けてくれる大前先生、シナリオを共に学び鍛える戦友のみんな、私が辛いとき苦しいときにも変わらずいっしょにいてくれる親友のKとN、私にたくさんの元気をくれるステファン、何より私を応援し続けてくれる父と母に、感謝の言葉を贈ります。


「パラダイス・ロスト-この世の果ての物語」 あらすじ


美和(10)はまだ赤ん坊の妹ひなたをうとましく思っていた。


両親はひなたにつきっきりで、夏休みだというのに家族そろって遊園地にもカラオケにも行けない。


美和が留守番をしていると、河童がやってくる。河童は、美和が腹いせで川に投げた石のおかげで相撲に勝った、お礼になんでもひとつだけ願いを叶えると言う。


何を願おうか悩む美和。すると、ひなたが大きな声で泣き出す。「静かにして!」と美和が怒ると、それを願いだと勘違いした河童が、ひなたを消してしまう。


美和以外の人間に、ひなたの記憶はなくなっている。


美和はひなたのいない家族団らんを楽しむが、しだいに寂しさと罪悪感を覚える。


美和は川に行き河童を呼び出して、「願いはなかったことにして欲しい」と言う。河童は「一度願ったことは変えられない」「お前が代わりになるか」と聞く。


10年後、10歳になったひなたは母親と共に川の事故で死んだ美和のために、花をたむける。


 

総評


今回で13回目を迎える南のシナリオ大賞。200通の応募がありました。皆様の創った物語、全てじっくり読ませて頂きました。皆様が時間を掛け、考え、悩んだことが一文字、一文字に現れてきています。


その中から、大賞を選ばなくてはならないのは、どこかで、私たちが選んでいいのかと、ついつい思ってしまいます。この自問自答は審査が終わるまで続きます。ふ~っと溜息を付いて……つらいな、と呟く一瞬があったりします。


しかし、選ばないと審査は終わりません。皆さんが作り出した物語に感動したり、旨いな思いながら選ばせて貰いました。


大賞は、「はるしぐれ」の伊吹一さん。一言で言えば、旨いなと思いました。男との女の距離感を雨の音を使いながら現しています。ラジオドラマにしたい作品です。


優秀賞には、「沼子の人生」の日高真理子さん。20年も引き籠っていた沼子。ラストは、沼子が思いのたけをぶつける長セリフが秀逸でした。


次は、「パラダイス・ロスト―この世の果ての物語―」の荻利行さん。おばあと子ども2人。3で暮らしている島が舞台。ちょっと不思議な物語でした。


三つ目は、「さらさら願い」のなないろみほさん。河童が出てくる昔物語風。ラストはちょっと意外で残酷的な匂いがします。


今回は、大賞1編。優秀賞3編の選出となりました。とにもかくにも、200通の応募に感謝します。来年も再びお会いできることを祈りつつ。




日本放送作家協会九州支部

審査委員 盛多直隆


 

第13回 南のシナリオ大賞 表彰式

 
  • 日時:11月17日(日)15:00~16:30

  • 場所:アクロス福岡(福岡市中央区天神)


第13回南のシナリオ大賞 表彰式 記念撮影
第13回南のシナリオ大賞 表彰式

 

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