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第16回 南のシナリオ大賞

  • 2024年3月15日
  • 読了時間: 4分

更新日:2024年3月18日


第16回 南のシナリオ大賞 結果発表


第16回南のシナリオ大賞 結果発表
第16回南のシナリオ大賞 結果発表


南のシナリオ大賞


  • 「ちりんとくん」青木 ドナ(茨城県)


優秀賞


  • 「青空の彼方から」谷口 あゆむ(東京都)

  • 「ア・イ・シ・テ・ル」橋本 直仁(東京都)



一次選考通過作品


一次選考通過作作品(朱色は二次審査通過作品)

かわんちゅ」羽柴実里(東京都)

「ふさわしい悲劇」駒井俊彦(東京都)

「ボゼとして生きる」童童(東京都)

「星降る湖」吉井雅施(東京都)

「ちりんとん」青木 ドナ(茨城県)

「可愛らしい変なやつ」美苗(神奈川県)

「ビター・スイート・チョコレート」藤盛裕司(神奈川県)

「天国フライト」桐乃さち(神奈川県)

「長浦スイカ」杉原みき(東京都)

「父のいる庭」藤後竜也(鹿児島県)

「青空の彼方から」谷口 あゆむ(東京都)

「献血車のシドとナンシー」三田羽人(東京都)

「スーパー嘘つきじいちゃん」栗橋勇太(神奈川県)

「あかり、消さないで」和雨(東京都)

「ポッペンの親心」佐藤和心(大阪府)

「ア・イ・シ・テ・ル」橋本 直仁(東京都)

「トルコライスな私たち」竹田行人(東京都)

「消えぬまに」吉見由香(東京都)

「ナカタナカ」渡貫涼子(千葉県)

「牛喰って地固まる」川井日登(東京都)

「素直じゃないんだから」中山理恵子(東京都)

「夜汽車を待つ下駄の音」立石えり子(神奈川県)

「君からの贈り物」木村加世子(長崎県)

「大悪党ラーメン」出口絵理(神奈川県)

「屋上の人々」森上道弘(静岡県)

「結い奏のヴァイオリン」梅原知也(千葉県)

「50日目の朝」河原畑 剛(東京都)

「陣痛元の元」山田徳子(東京都)

「モモサン」菊谷淳子(東京都)

「水面月」杉田鮎美(埼玉県)

「遠い日の記憶」岬 うみ(岩手県)

「ユーチューバーようか、糸島で源さんと出会う!」日高真理子(福岡県)

「海辺の腹鼓」益子悦子(神奈川県)

「ターザンになった娘」矢木ニ久子(東京都)

「青くない海」丸石 龍(神奈川県)

「ペンギンの船」久継遥々(東京都)

「涙でにじんだ夕日」岡部凌士(神奈川県)

「湯布院で見~つけたっ!」立石えり子(神奈川県)

「わたしたちの富士」石川ふみ(石川県)

「夢見るカチャーシー」平山貴黄(東京都)

「クルスの海にて」太原同土(東京都)

「高崎山月記」阿南 改(東京都)

「緑光」稲見周平(大阪府)

「日の出屋のごほうび」牧岡志朋(愛知県)

「フロリダに風呂はない」阿南 改(東京都)

「ずっと……」磯野洋子(神奈川県)

「海底の舞」まさとし(東京都)

「ルリモハリモ」櫻井まり(東京都)

応募総数

276編(2022年8月31日締め切り)


主催

主催:日本放送作家協会九州支部

後援:日本脚本家連盟九州支部 / 日本脚本家連盟寺島アキ子記念委員会


選考会

2022年10月22日、福岡市中央区赤坂

審査委員: 盛多直隆、皆田和行、副島 直、香月 隆

実行委員: 町田 奈津子


第16回最終選考ドキュメント

第16回南のシナリオ大賞選考会


(4)「ちりんとくん」

(3)「かわんちゅ」

(3)「ア・イ・シ・テ・ル」

(3)「水面月」

(3)「日の出屋のごほうび」

(3)「青空の彼方から」

(2)「ボゼとして生きる」

(2)「ナカタナカ」

(2)「ペンギンの船」

(1)「モモサン」

(1)「遠い日の記憶」

(0)「牛喰って地固まる」

(0)「君からの贈り物」


()内の数字は審査員投票数


君からの贈り物


盛多:話が当たり前過ぎて面白みに欠ける。


皆田:お祖父ちゃんがドナーになっていたことを知って、孫娘はなぜ早く教えてくれなかったのって訊いてるけど、それって隠さなきゃいけないこと? 堅く口止めされてたって言ってるけど。お祖父さんの命と引き換えに骨髄を提供されるってことなら、奈々子が嫌だって言うのもわかるんですが。


町田:手術は7歳のときなので、まだ自分でそれを判断できる年齢じゃないですよね。


皆田:だけど、そこがお祖父ちゃんと孫娘の関係のポイントになってるわけですから。なぜ今まで隠していたのか。そこが疑問に残って感情移入できなかったですね。


盛多:お祖父ちゃんお祖母ちゃんと、お父さんとお母さん。母親が娘に話すときと、自分の親に直接話すときで呼び方は違うはずなんです。それが混在してる。


副島:冒頭に独居老人死亡のニュースがあるので、何かの伏線かと思って読みすすめるけど物語に絡んでこない。


香月:ニュースの後に続く1ページくらいのやり取りはぜんぜんドラマと関係ない環境描写。すべり出しがかったるい。お祖母ちゃんが出てくるけど、登場人物表に書いてないですね。


盛多:応募する前に推敲してないんでしょう。細かいところに気を配ってない原稿です。



牛喰って地固まる


副島:夕方の情報番組で牛喰い絶叫大会のニュースやってて、こんな親子もいましたって紹介してるだけ。息子は「ユーチューバーになりたい」、娘は「ベスカタリアンになる」って。親父は会社辞めるぞって。ただ叫んでるだけでしょ。だから何?って感じ。どこが面白いのかサッパリ分からない。


盛多:最後まで何にもなくて終わる。お父さんの仕事ってなにやってるんだろう? 表面的なものだけで組み立てて、裏に何かあるか分からない。ドラマになってない。


香月:「折ってある紙を広げて机に叩きつける」とか「芝生の上を歩いて行く」とか、音の使い方も良くないね。



遠い日の記憶


皆田:父親と娘の和解を「肩たたき券」を使ってやってるところが良いかな。もう少しドラマに山と谷があればと思いました。


町田:主人公が抱えてきたトラウマはよく書かれていたと思います。


副島:昨今流行りの男女の平等とかフェミニズムをテーマにしているんだろうけど、家父長制の悪いところだけを一方的に批判していて気分が悪い。


盛多:断片集めて無理くりストーリーを作ったみたいな。「へんだよね、家族のそんな感じって」ってセリフにあるんですが、分かります? 家族のそんな感じって。


町田:叔母からの連絡でお父さんが死にそうだって知って、それで会いに行くんだけど、叔母さんは、沖縄に置き去りにしてきた父親とコンタクトしてたってことでしょうけど、そこがどうも引っかかって。


副島:父親の兄妹なのか、母方の叔母なのかで違ってくるんだろうけど。


皆田:(叔母さんが)尚行さんって、さん付けで言ってるから母方の叔母でしょう。逃げた母娘の居場所を(父親に)ずっと隠してた。


副島:登場人物表に合川咲良と合川翔平がいて、翔平はきららの夫って書いてあるけど、きららって誰よ? 前半は咲良で後半病院で再会するときは(役名が)きららになってる。執筆中に変えちゃったのかな。


香月:キーパーソンの名前が変わってるっていうのは、原稿としてどうなんだろ?


盛多:投稿する前にチェックしていない?


副島:締め切りギリギリに応募してる人多いです。15枚だからサラッと書き飛ばしてパッと送信して、賞獲れたらラッキーみたいな感じじゃないかな。あと、原稿の最後に(終)でも(了)でも(完)でもいいけど、入れておいて欲しい。とくにこの作品の場合、「そうか、骨ばって痛いぞ」「うん、うん、大丈夫」って尻切れトンボなセリフでバサッと終わってるから、これで終わりなの? PDFに変換するときにミスったのか? とか、余計な心配をしてしまう。


香月:これは完成品の原稿ではないですね。タイトルもゆるい。



モモサン


副島:今回、死後の世界を扱っているのが3本あって、そのうちの1本。映画「シックス・センス」と同じ(登場人物は)実は死んでいましたってトリックは3本共通してます。


町田:タガログ語の「モモ(幽霊)」と主人公の名前「モモエ」をかけたところ、マリアさんにしか見えない設定は、とても良いアイデアだと思いました。


香月:妖しげな、不思議なムードがありますね。


皆田:最終ページの百恵(主人公、実は幽霊)のセリフなんだけど。


副島:「家族なんだから、わかってるはず、家族なんだからいつでも言えるなんて思っていると、伝えたかったこともちゃんと伝えられないままになってしまうのね」


皆田:結局それがテーマで、作者はそれを伝えたかったんだろうけど、セリフでストレートに出しちゃうのって、駄目なんじゃないの。


香月:冒頭に、大浦天主堂の鐘が鳴り始めて、遅れて妙行寺の鐘が鳴り始めるってあるけど、テンポも音色もまったく違うふたつの鐘の音って、これうまく録れるんですかね?


盛多:精霊流しの場面で「サイホウ」って言葉が出てくるんだけど、これって「西方」が音だけで分かる?


副島:「西方浄土」って言えば分かるかもだけど。「サイホウ」だけだとどうだろう? 「浄土」ってあればすぐに「極楽浄土」が連想できるだろうけど。


香月:どうしてフィリピン妻なんだろうね。息子はなぜフィリピンの女性と結婚したのか、その理由が書かれていない。これって必要条件じゃないですか? それと息子が帰国してすぐに不動産屋に行って家の売却手続きやってるんだけど、家の売却というのは大変な作業であって、これは無理でしょう。



ペンギンの船


副島:もう1本の幽霊ネタ。映像がないからこそのトリック。


町田:幽霊ものが3本あったなかで新しいのは「ペンギンの船」。ずっと標準語を使っていた母親が長崎弁で「この子はこがんこと言うごとなって……」ってシーンは、グッと胸に迫ってくるものがありました。


香月:「標準語」というのは駄目ですね、いまは「共通語」って言ってる。高本さんに確認したけどやっぱり「共通語」だって言ってました。「標準語」は差別語でまずいんじゃないかって。ドラマ化したらかなり問題になる。


盛多:手紙と葉書が混在してて、ここがよく分からない。郵便箱には僕宛の葉書の束が入っていて、その一通は園長先生から送られてきたもので主人公はそれを読むんだけど、読んでる最中に手紙になってて。


副島:葉書は裏が絵葉書で、色がついてたので(主人公は)そこでこの場所がモノクロで死後の世界だってこと気づく、仕掛けの種明かしとして使われてる。


皆田:手紙と葉書のくだりは一回聞いただけで分かるかな。


副島:読んでいるぶんには文字が(記憶に)残るから理解できているんだろうけど、これがセリフとして音で流れていったとき、リスナーにちゃんと伝わるかどうか。ラジオドラマって一度集中が切れちゃうとそこで終わりです。


盛多:園長先生は順番が逆じゃないって書いてるんだけど、これって誰に言ってるのか? 相手は誰?


副島:リスナーでしょう。モノローグでストーリーを進めているけど、これ全部リスナーに向けての説明で、この不思議な世界は死後の世界でしたって、その説明だけで終わってる。ドラマとしてのたっぷりが足りてない。



ナカタナカ


盛多:単純に登場人物が二人で作りやすいなと思って。それと、DVとか幽霊とか陰気な話ばっかりだったので、この男二人の友情物語っていいなって思って(一票)入れました。


香月:男同士の友情がよく出てる。セリフのテンポがいいですね。純文学ではなくて中間小説、大衆小説としての面白さ。私は絶賛してます。


皆田:この二人って、一人は将来タクシー会社の社長が約束されてる男だし、もう一人は売れっ子ユーチューバーで、そこそこ成功してるし再結成しなくてもいいんじゃない? この二人を応援しようとは思わなかった。


盛多:ぼくは逆に応援しようと思った。いまの生活に満足していないんだなって裏が読めるんで。夢が終わっていない、まだ可能性あるんじゃないかって、男二人の友情に共感した。


副島:まだ26歳ですよ。人生始まったばかりじゃないですか。再結成するとかしないとか、好きにすればって。さっきの牛喰い絶叫の話とこれだけは絶対にないと思ってきました。足音、足音、足音、車の発進、停車、発進って、つまんない音ばかり並べて。ぜんぜん効果音になってない。


盛多:ぼくは副島さんのその意見に賛成できない。音はいっぱい作れますよ、波の音とかで情感だせますって。(音のドラマとして)成立してますよ。


香月:セリフがいいんですよね、面白くて楽しい。


副島:ぜんぜん楽しくない。「やばっ! 運転手さん、すごいね。もう気づいちゃった?」「そう、幸せよ永遠にぃのユーチューバーのコーエイでぇす」「すいません、眩しいんでサングラスかけさせてください」。軽薄でわざとらしいセリフばかり。お笑い芸人ってキャラ作りでガチャガチャしたセリフ喋らせてるんだろうけど、うんざりだわ。


町田:コンビのどっちかが人気者になって片方は芸人を諦めているという話は映画やドラマに多くて。それとタクシーの車内での会話劇は2年前に「ほてぱき」があったので私は外しました。でも爽やかで、会話のテンポは(最終候補作のなかで)一番良かったと思います。



ボゼとして生きる


副島:DVとか幽霊とか陰気なドラマが多いなかで、突出してナンセンスなバカ話だったので(票を)入れました。


盛多:それは分かる。


副島:しかも登場人物が13人!


盛多:それは駄目だ。


副島:実際あるんでしょ、悪石島のボゼって。


盛多:あるある、鹿児島県の南のほう、人口 670人の島。


香月:いや、悪石島の住民は 70人くらい。十島村全体で 670人でしょう。元朝日新聞の記者が書いた本もあって、ぼくは読んでるんだけど、それ知ってると引っかかるところがいっぱいある。


盛多:お面かぶってマラ棒持ってて、そんなボゼが都会に広まっていくってのは面白いとは思った。


副島:水木しげるのニューギニアを舞台にした漫画にこんな妖怪が出てくる。都会の夕日の中をボゼの親子が手をつないで歩いてる、ラストの情景がシュールでいいなあ。



ア・イ・シ・テ・ル


盛多:NHKが制作した「星新一短編ドラマ」に似たような話があった。身体がどんどん腐っていってロボット化してしまう話。


町田:この気持ち悪さはラジオドラマの想像力で映像で見る以上に伝わると思ったのと、最後の爆発するところのドキドキハラハラが良いと思いました。主人公は上からの指示を無批判に受け入れていて、腕が取れたり身体ボロボロになりながらも悲観してないんですね。そこが新しい。


副島:直面する問題を場当たり的に蓋をして抑え込んでいく政府の対応が、コロナ問題に対する今の政府を風刺している。


皆田:指先から腐っていくというのが、今のスマホ時代を警告してるのかな。


香月:始まりは面白かったんだけど、途中から話がどんどん陳腐になって。突然玲奈のモノローグが入ったりしてるでしょう。


盛多:主人公でなければモノローグやっちゃいけないというルールでなくてもいいのかな。つまり、玲奈のモノローグはあってもいいかも。というのは、この作品は基本的に玲奈と和也の話なんですよ。


副島:ラブストーリーですよ。


盛多:そう、玲奈と和也のラブストーリーでありながら、どんどん腐っていって、最後は爆発しちゃうというのが、ここまでやるのかと。ぼくのなかでは評価高いです。他の作品は評価しなくちゃ審査しなくちゃと冷静に読んだんだけど、これは熱心に入り込んでラストまでイッキに読んでしまった。


香月:最後がいちばん気に食わないですね。玲奈はどうしてこんなに和也に執着してるんですか?


副島:好きだからですよ。


香月:なんで執着しているのかが書かれていないね。


盛多:男と女の間に理屈はいらない気がするんですけど。


副島:恋に理屈などいるものか!


香月:タイトルのナカグロってどういう意味だろ? どんな風に読むの? あ、い、し、て、る、ってロボットみたいにやるのかね。ドローンの音とかどうやって録るんだろう。

副島:気になったのは、グィーンとかギュインとか、ぽたりぽたり、ガチャリ、ガリガリ、ぐにゃりとか。擬音語が入った効果音のト書きはやめて欲しかったな。



水面月


盛多:最初は、なんだ河童の話かよって読み始めたんだけど、もしかしたら良い話じゃんと思って。人間が河童になるって昔話はよくあるんですけど、逆に河童が人間になるというのは珍しかったので(票を)入れたんですけど。


皆田:最後は人間になるってオチに、やられたなって感じですね。


副島:倫理観道徳観が消えていって、それで人間になって(河童でいたときの記憶を)忘れていくってラストが良い感じ。場面が水辺というのが情緒があって良いですね。


盛多:悲しい話だけど良い話だと思いましたね。


香月:セリフが拙い。よく書けてる作品には瞠目するような魅力のあるセリフがあるけど、それがない。河童が成長して醜い人間になるのは、テーマとして通俗的。ラストが長いモノローグで結論付けてる、これは決定的な欠点になるんじゃないですか。ラジオドラマとして辛いですよ。


盛多:逆にそこが良いと思った。


香月:枚数2枚オーバーしてますが、それはいいんですか?


副島:募集要項には枚数制限は書いてません。15分程度のラジオドラマ脚本とだけ書いてます。去年の(九州支部の)定例ミーティングでも、多少の長短は許容しましょうと伝えています。


盛多:モノローグ多いから、実際作ったら15分では収まらないだろうけど。


副島:中盤の相撲大会のあたりはテンポ上げられますけどね。



かわんちゅ


副島:これも幽霊もの、夢オチのどんでん返し。


盛多:幽霊3本のなかではこれがいちばん良かったかな。


香月:沖縄弁で「かわんちゅ」ってないでしょう? 沖縄は川のことを「かー」って言う。


皆田:ネットで調べたら「かわんちゅ」あるんですけど、それは靴とか草履とか革製品を製造している


職人さんのことなんですね。川の人ではないですね。


副島:うみんちゅ(海人:漁業など海の仕事に従事してる人のこと)があるから、それに対してかわんちゅってつけてる。作者の造語でしょう。


香月:セリフがうまくないですね。追っかけセリフがいっぱいで、主人公の14歳の少女のセリフも、どうかなぁって思う。


皆田:三途の川を渡っているんですよね。それで親父は「しっかり生きろ」って突き落として(主人公の娘を)現世に戻してやる。でも、娘はただ溺れていただけで、物語的に足りない。


香月:(娘が溺れている)状況説明がないのは苦しい。それと最後、ただ一言だけのために人物が出てくる。こんな人物は必要かな?


副島:シーサー工房の社長。お母さんが社長と良い仲になってるけど黙ってていいのって。幽霊トリックでリスナーを引っ掛けるためだけに用意された人物。こんなのいらない。


盛多:重要な小道具としてストラップを出してるんだけど、どんなのか分からない。形くらい書いて欲しかったな。



日の出屋のごほうび


香月:この作品には気取りがない。自然体でうまいですね。駄菓子屋のオバサンがよく描けてる。作品としては小さいけれどオリジナリティがありますね。


副島:駄菓子屋に集まるガキンチョたちの会話が楽しかった。10円足りないからカレーせんべい買えない子がいて、仲間が塩せんべいと半分こしようってくだり。


盛多:それを見て主人公は「子供の友ちゃんはできてなかった」と反省するんですよね。


皆田:分けるのと違う。ちょっと意味がズレているんじゃない。


副島:主人公に魅力がない。幻の焼きそばってなんだろって興味だけで駄菓子屋に通ってる。それが主人公が抱えている問題に直接関わってこない。行動の動機が脆弱にすぎる。


皆田:最後に主人公が「他人のせいにして自分から目を逸らすのはやめる」って決意を述べてるんですけど、作者が言いたいことを念押しでモノローグにしてる。


副島:その長いモノローグの合間に、焼きそばを啜る音がずっと入ってる。咀嚼音は聞いてて気持ち良い音じゃない。カットしちゃえばすむ話だけど。シナリオの作りはダメダメ。主人公はなぜ Webデザイナーなのか、職業がストーリーにまるで絡んでない。なぜビーチサンダルで歩いてるのか、なぜ車に轢かれそうになるのか。ストーリーに関係ないことばかり意味ありげに書かれている。ト書きに足音書かなきゃ場面作れない人はラジオドラマに向いてない、テレビのシナリオに専念されたほうがよろしいかと思います。



ちりんとくん


副島:子供が可愛くて可愛くて、ちりんとくんのネーミングも可愛くて。脚本としてはあまり良い出来とは思わないけど(最終候補作のなかでは)いちばん共感できて、大好きな作品です。


町田:子供はDVを受けてるんですけど、これって相手の男から?


副島:姉でしょ。預けに来たんじゃなくて、姉が捨てたんです。


皆田:こういうケースって警察ですか?


盛多:区役所の児童相談所かな。警察に行っても児相を紹介されると思う。


皆田:それで主人公は自分が引き取るって決心するわけなんですけど、これって当たり前過ぎてドラマとしてどうかな。


副島:セリフのなかに「自分にも姉と同じどす黒いところが半分ある」ってあるんですが。普通にやさしい男ですよね。


皆田:そこが足りてない。


香月:この作者はずいぶん書き慣れてると思う。というのは、セリフのあとに「--(ダッシュ)」を入れてるでしょう。いまは「…(三点リーダー)」ふたつ入れる人が多い。


副島:そんなのどうでもいいです。その手の(書式についての)質問をメールでよく受けるんですが「好きにしろ」って返事してます。


香月:シーンのなかに「 X X X 」ってあるんですけど、これなんですか?


盛多:間を空けてくれってことかな、場面転換の。


香月:それと風鈴の音というのはもうずいぶん使い古されてますね。古いパターン。


副島:可愛いからいいじゃないですか。ちりんとくーん。可愛いね!



青空の彼方から


町田:オンラインの戦争ゲームと認知症のお祖母ちゃんの組み合わせが新しくて、他にないものだった。ゲームの音がいっぱい入ってきて、ラジオドラマとして良い題材だと思いました。


香月:孫(主人公)を「一郎さん」って呼ぶところはホロっとするけどね。でもやっぱり92歳の認知症のお祖母ちゃんがゲームするというのは、正直言うと無理なんです。


副島:ケース・バイ・ケースでしょう、決めつけないでください。


香月:いや医学的に無理よ。認知症にはアルツハイマー型と脳出血型と二つあって、アルツハイマー型だとまるっきり駄目だし、脳出血型でも指が動かないんですよ。老人ホームって言ってるけど、老人ホームも種類はいろいろあるんで、どんな老人ホームなのか分からないけど、だいたい老人ホームに入ってる人に(ゲームは)駄目でしょうね。


皆田:認知症にもレベルというか、いろんなパターンがありますから。うちの母親も最後の方はちょっと痴呆が入ってましたけど、ぜんぜん問題ないときもあるし、ぼくが母親の弟に見えているときもありました。まったくもって会話できないわけでもないし……


香月:でもこれゲームやるわけでしょ。


皆田:だから出来ないことでもないと思うんですよ。(ゲームが)出来る認知症なんだなって、ぼくは(このドラマを)受け入れましたけど。


盛多:認知症でゲームやってる92歳のお祖母ちゃんというのが、このドラマの面白さだと思ってます。香月さんがおっしゃっている事が現実だと思うんですけど、もしかしたらそういうお祖母ちゃんもいるかも知れないということですよね。


皆田:こういう(ゲームを使った)治療法もあっていいんじゃないかなって。


香月:認知症を経験した家族がこれを読んだら、かなりナンセンスだと思いますよ。


皆田:認知症のお祖母ちゃんがゲームやるという設定も面白いし、ゲームの中で一郎さんを探してて、帰ってくるのを待っていつも空を見ているというのが良くて、大好きな話なんですけど。最後のモノローグで「お祖父ちゃんやお祖母ちゃん、お父さんやお母さんに恥じないように……いや、息子や孫に胸を張って言えるように生きていきたい」ってあって。それは物語のなかで表現して、聞いた人に感じてもらうことであって。最後の最後で、なんでこんなこと書いちゃったんだろうな。


盛多:作者のメッセージがダイレクトに出ていて説明的にすぎる。その最後のモノローグですけど、ここだけ役名が「耕太」になっているのは作者のミス?


副島:登場人物表にバスガイドとあるけど出てこない。たぶん知覧に行く場面で登場してたんだろうけど、推敲したときにカットしちゃったのかな。知覧に行くって行動があって、主人公の成長に発展する。引きこもりで母親に何のために生きてんのみたいに見られていた主人公が、老人ホームでボランティアやるようになる。いい話です。


香月:「そうですね、飛行機の方へ行ってみましょうか」ってあって、航太のモノローグで「僕は展示してある特攻機に目を奪われた。海から上げられたという特攻機を僕は隅々までみたくなった」とあるんだけど。これは飛行場のことですかね? 飛行場は知覧に残ってたっけ?


盛多:飛行場はもうないですね、とっぱらって公園になってます。


香月:その公園に平和記念館が建てられて、飛行機は記念館の中に展示されてるんだけど。読んでいてそれが疑問だった。



ここで休憩をとって再投票


盛多:いま残っている作品の中から、どれを外して、どれを残すか? 絞っていきます。「ナカタナカ」は外します。如何でしょうか?


香月:いいですよ。


盛多:「水面月」は残したい。


副島:「かわんちゅ」は残しますか?


盛多:死にネタは(3本まとめて)もういらないかな。


町田:幽霊ものを全部外すのはどうでしょう? 3本全部落とすと来年は死んだ人の話は応募する人がいなくなりますが。


盛多:全体を3本(大賞1本、優秀賞2本)に絞っていくうちで、幽霊ものって入ります? 作品本位で考えた場合、いま残っているものを落としてまでも残しておきたい幽霊ものってないように思う。


香月:私は「ア・イ・シ・テ・ル」は100パーセント買わない。ストーリーが破綻している。最後の爆発、八方破れなエンディング。女はなぜこんなバカ男に執着しているのか、その理由が書かれてない。


盛多:男女の愛に合理的な理屈を求めたら、すべての恋愛物語は成立しませんよ。「青空の彼方から」は評価が分かれてますが、3票入ってるので残します。


副島:「ちりんとくん」は?


盛多:残す!


皆田:ぼくが△で票をいれてるのは、全部消してもらっていいです。


副島:じゃおれも△の票はぜんぶ消す。


盛多:皆田さんと副島さんの△を外したところで再投票。一人2本で。


皆田:「青空の彼方から」か「水面月」


盛多:「水面月」か「ア・イ・シ・テ・ル」


町田:「青空の彼方から」と「ア・イ・シ・テ・ル」


香月:ぼくはなし。どれも買わない。


副島:「ちりんとくん」残ってますよ。


香月:じゃあ「ちりんとくん」


副島:私は「青空の彼方から」か「ちりんとくん」



最終審査


香月:「青空の彼方から」は、92歳の認知症でこんなにキチンと喋れるか疑問。


副島:(おばあちゃんは)16歳に戻ってるから。


香月:それは言葉の遊びでしょう! 92歳の認知症のおばあちゃんが、こんなにみごとなセリフを喋るのが最初から疑問なんですけどね。文体が普通の、正常人の喋りでしょう。それを気にしているんですよ。


町田:私が通っていた老人ホームに、このおばあちゃんみたいな人がいらっしゃいました。お父様が東宮御所でお仕事されていたという、そういう家庭に育った気品があって、いつも綺麗にお化粧されて、シャキシャキ喋って。この人が痴呆とは思えないくらいしっかりした話をされていて。でも「空襲は大丈夫だった?」とか「昨夜は一晩中爆弾が落ちて大変だった」とか言い出して、本人はまだ戦時中に生きていると認識してる。だから、こんな認知症の方もいるんだなと思った経験があります。


香月:要介護認定はいくつ?


町田:そこは3以上でないと入れない施設でした。


香月:それはまだら認知症といって、症状に偏りがあるゆるい認知症。ときどき正気になるような、そういう人もいるけど。だからこのおばあちゃんも立派にセリフを喋ってるときと、認知症を思わせるような喋りがあればいいけど、これにはそういう表現が全然ない。長いセリフをベラベラ喋って、演技どうする?それに老人ホームで卓球とかテニスのゲームって無理ですよ。うちにもゲームがあって、ぼくはむかしテニスやってたけど、いまのAI相手にとてもついていけないのね。ぼくと同年代の友だちに聞いても、ゲームの画面見ただけで拒絶反応おこすって言ってます。老人ホームで卓球のゲームやるとか、実際の関係者が聞いたら吹き出しますよ。


盛多:おばあちゃんの認知症よりも主人公が問題。母親のセリフで「一番辛かった記憶のときの記憶を蘇らせて可哀想だって思わないの?」とあって、それに対して主人公は「思わない! だって、お祖母ちゃんゲームしている時、お祖父ちゃん探してる時、生き生きしてるから」って。こんなに言い切ってしまう主人公が好きになれない。


副島:航太の言ってることが、それが絶対正しいことのように、作者が聞き手側に押し付けてる。確かにこれは危険。おれがいちばん嫌いなキャラだ。


盛多:(「青空の彼方から」は)モノローグのあとで突然場面が切り変わる箇所がいくつもあって。例えば「祖母ちゃんはいきなり走りだした」って航太のモノローグのあとで、次の(食卓の)シーンに突然とぶんだけど。これってどういうつながりなのか。


副島:そこでCMが入るって感じですね。


盛多:そのへんの(シーンのつくりに関しての)丁寧さが欠けている。


香月:今回残ってるのは、どれも作りにくいですね。


副島:「ちりんとくん」は作りやすいですよ。


皆田:「ちりんとくん」は、幼い子どもの面倒を見る決意が風鈴の話だけで、物語が足りない。


香月:お母さんのDVをもう少し書き込めばよかったね。


副島:それが無いから良いんです。おなじ家族の暴力を扱っていても「遠い日の記憶」みたいに暴力描写をダイレクトに入れるのは嫌らしい。「ちりんとくん」の間接表現のほうが品があって良い。


町田:6歳の子がトイレットペーパーを買ってくる場面が胸にジーンときました。


副島:なぜトイレットペーパーなのかと考えたとき、たぶん、朝、自分が使い切ってしまったのでそれで買いに行ったんだろうって。


町田:母親に叩かれてたりしてきているから、紙が無くなったら自分で買ってくる、それが6歳で身についている。そんなところが、このたった2行で表現できている。500円持ってたのも前に振ってあって、よく書けていると思います。


副島:「ちりんとくん」はタイトルが良いんです。「水面月」も情感があって良い。タイトル最悪なのは「君からの贈り物」「遠い日の記憶」「青空の彼方から」。


盛多:最終決定は挙手で決めたいと思います。


副島:数の暴力を行使するんですね。


盛多:多数決は民主主義の基本です。「水面月」「ア・イ・シ・テ・ル」「ちりんとくん」「青空の彼方から」の4本。一人1本で挙手お願いします。

「水面月」(なし)「ア・イ・シ・テ・ル」(副島)「青空の彼方から」(皆田・町田)「ちりんとくん」(盛多・香月)


副島:とりあえず「ア・イ・シ・テ・ル」を優秀賞として。「青空の彼方から」か「ちりんとくん」のどちらを大賞とするか?


皆田:あとは副島さん次第です。


副島:じゃ「ちりんとくん」。今日この部屋に入るまでは「青空の彼方から」1本と決めてたんだけど、セリフひとつひとつ追って読み直していくうちに、どうも共感できなくなってしまって。主人公は成長してるんだけど、その過程で迷いや葛藤がなかったのがマイナスに傾いてしまいました。高齢者介護、ゲーム、戦争、それに青空のイメージと、物語はすごく濃いんですけどね。


盛多:大賞は「ちりんとくん」。優秀賞は「青空の彼方から」と「ア・イ・シ・テ・ル」とします。



エピローグ


盛多:今回はどういう傾向だっけ?


皆田:幽霊が3本。


副島:「今昔物語」とか「雨月物語」とか、幽霊は日本文学の伝統です。


盛多:3本が3本とも実は死んでましたってオチ。


副島:アガサ・クリスティの「アクロイド殺し」みたいなの。


盛多:ラジオドラマだからモノローグ使わなきゃいけないっていうのがあるんだろうか。モノローグでストーリーを説明してるのがやたら多かった。


皆田:作者のメッセージをラストでまとめた念押しのモノローグが何本かあって、これってドラマとしてどうかなって思いました。


第16回二次審査通過作品

二次審査員の寸評(応募順)


かわんちゅ

とてもテンポよく自然な流れで、物語がすーっと入ってきました。娘と父の表情や川を渡る船の光景が、ありありと浮かびます。後悔が回収されて、娘も人として少し成長できたのかなと感じました。悲しいけどハッピーエンドで、気持ちのよい読後感を得ました。


ボゼとして生きる


奇妙なシチュエーションを想像させながら、繰り返されるリズムで、ばかばかしくも楽しかったです。ボゼとはどんな姿なのか、どうやって作るのかなどの描写はもっと欲しかった。「都会的無関心」に対して登場する「ボゼ」や「島」をどう扱うかで、何か芯のあるドラマになるのではないでしょうか。



ア・イ・シ・テ・ル


コロナ禍の今だから、妙にリアルさを感じる展開。発想は良い。先の展開が気になる仕掛け。ただ、若干表現がエグいので、ラジオドラマとしては好き嫌いが分かれるのかな…。ラストのオチは読めただけに、もう一捻りしていたらマルだったのに惜しい。



ちりんとくん


風鈴が意外なところから出てくるラストが印象的でした。登場人物の情報が適度に配置され、凝縮されていて、読みごたえがありました。切実な人間ドラマで、切実な台詞が紡がれる中、博多風を表現するための「なんしようと」、中華風のための「アイヤ」などの言葉が形式的で、浮いてしまっているように思いました。



ナカタナカ


昔、漫才のコンビだった男たちの話。今は、その二人は生きる為に別々の道に進んでいる。細かな点まで二人の友情の深さ描き、二人の気持ちが分かってくる。そして、久しぶりの再会で再びコンビ再結成へ。よくある着地点だがそこまでの運びをテンポよく描いてる。欲を言えば、すんなり再結成にいくまでにもっと事件が欲しかった。



牛喰って地固まる


親子の会話が足りていないという関係性を、説明やナレーションもなく表現できていて素晴らしいと感じました。題名も洒落が効いており、内容にぴったりでした。なんだかんだで父をきらいではない兄妹も素敵で、3人のやりとりが面白かったです。



君からの贈り物


心がほっこりするいいお話。テンポも軽快で飽きない。ナレーションも少なく、しっかり会話で状況を説明しているところに脚本としての好感が持てますね。ただ、ラストがあまりにもありきたりだったのが残念。


穏やかでいい作品です。主人公の心の揺れもよく描かれています。それだけにP9の「今までの~蟠りがとけた」の一行は、そこで一気に気持ちの説明がされてしまって、以後の心の動きや話の展開が活かされなくなり、残念だと感じました。「」の中の読点(。)の使い方や、オーディオドラマであまり使わない「……」など、書式をもう一度確認された方がよいでしょう。



モモサン


パズルのような台詞の仕掛けが巧みでした。鐘の音や精霊流しなどの長崎のモチーフが、音声的にも心象的にも効果的に使われていて、きれいでした。きれいなドラマで、整っていて、サラッとした印象です。真夏の長崎の暑さ、人間の感情の割り切れなさ、といったベチャッとしたものが(主人公はそれを感じない存在になっているとしても)もう少しあっても良いかもしれません。



水面月


人間なら誰しもが持っている感情を暴いてくれた、凄みを感じました。自分のおこないを振り返るための、きっかけをくれる作品です。最後に「じいちゃん」を忘れてしまう場面は淋しいですが、本当に「化け物」になってしまったのだなと納得できるよい演出でした。



遠い日の記憶


台詞も無駄が無く、人物の設定やドラマ運びもスムーズです。過去と現在との繋がりや往来も無理なく理解でき、書き慣れた作品だと感じました。ただP15の「私は覚悟を決めた」-この直接的な台詞は必要だったかな? 前後の流れの中でその決意を聞き手が感じとる-それはある程度できているし、そもそもある程度の覚悟をもって病院まで来ていると思うので。注意点として、途中から「咲良」が「きらら」に変わっています。そしてもう一点。もう少しタイトルに工夫が欲しかったですね。



ペンギンの船


難しい設定を巧みに動かして、ストーリーを展開しています。「20数年経ってから、死後の部屋で母子が再会する」という流れも、運びや台詞の巧みさからか、なんの違和感も感じませんでした。亡くなった人への想いが手紙で届くという発想や、主人公と母親の両方を知る園長の存在もうまく使われていました。ハッピーエンドではなかったけれど、最後のMは余韻の残る綺麗な締めになっています。ただ、主人公が亡くなって時間が経っていない印象ですが、精霊船や爆竹はその年の初盆に(普通は何ヶ月も経って)行うのではないか、と違和感が残りました。

母と息子のと絆の物語。二人の関係は息子が母のことを嫌っていたが、実は後に母の深い愛情があったことが分かってくる。そこまでのストーリーが旨く運ばれている。場面場面の展開にも驚かされる。そして、エンド。ここにも、アッと驚かされるが、そうだったのかと納得してしまう。最後まであきずに読めました。



日の出屋のごほうび


ほっこりする物語。その世界を作り出しているのが駄菓子屋のおばあさん。その存在に昭和の匂いがしてくる。主人公は自分の意見がまとも言えないウェブデザイナー。おばあさんとウェブデザイナー出会いが何事も他人のせいにする主人公の生き方を変えていくきっかけになってくる。キチンと伏線があり、それも回収されている。幻の焼きソバも、いいアクセントになっている。



青空の彼方から


設定が面白い! ゲームの中で、亡き夫の幻影を追い続ける祖母の姿に興味がそそられる。初期の展開で祖母の言葉遣いが気になるが…(若すぎる?)実はゲームの中で16歳に戻っていたという設定で納得。戦争、殺人、ハードな内容だが、「ゲーム」というオブラートに包んでいるおかげで、ネガティブには陥らない。周囲からは色眼鏡で見られる祖母の姿がリアル。さらに、ゲームの中で同世代の孫と対等に渡り合う祖母の姿も妙に愛おしく感じる。認知症、ゲーム、戦争、現代の様々な事象と問題を上手に詰め込んでいるなと…少しハラハラしながら、でも、優しさがある。単純に面白かった。


以上、13編



第16回一次審査通過作品

第16回南のシナリオ大賞 一次審査通過作品

一次審査員の寸評(応募順)



かわんちゅ


構成が良いと思った。ほのぼのとした、しかし、なぜかぎこちない父と娘の会話で始まるが、物語はキーマンのようなストライプをめぐって、進行していく。やがて娘は死にかけていて、先に亡くなった漁師の父親が、賽の河原からあの世の入り口まで、魂を乗せて運ぶ川守と知る。全編に父親の愛情が伝わる。セリフもテンポよく、悲愴さを感じさせない。父親の娘をまだあそこに行くのは早いと、船から突き落とし現世界で仮死状態だった娘は生き返る。その手には父親と荼毘に付したはずのストライプが握られていた。ありふれたラストかもしれないが、なぜかホッとする。



ふさわしい悲劇


タイトル通りのホラーコメディ。ラストが予想できる内容だったが、スピード感があってオチに向かって走りきった作品だった。



ボゼとして生きる


登場人物表を見た時は多かったため、混乱しないかと思ったが、書き分けができていた。またラジオドラマでしか表現ができない展開が評価できた。



星降る湖


絵が描けなくなって重い気持ちの司が、ミチルとの出会いによって、少しづつ希望を持つようになっていく心の動きがよく書けていると思う。ラストの。「隕石は星の子だから星に帰してあげる」というミチルの言葉に、読者の私は妙に納得させられた。



可愛らしい変なやつ


『明治時代に観賞用だった苺を、食用に品種改良していった農学研究生の福原と、彼に寄り添い続けた女中のさわの物語』この物語が史実を元にしているかどうかは不明だが、さわのキャラが愛らしい。福原とさわのやりとりは、心がほっこりして幸せな気持ちにさせてくれる。数々の苦労を重ね、おいしい苺を作り上げた二人に拍手を送りたい。



ビター・スイート・チョコレート


展開がわかりやすく、引き込まれた。最後のひねりがもう少しあればさらに良かった。



ア・イ・シ・テ・ル


近未来を扱っているため好き嫌いが分かれるところだが、設定は面白いと思う。現代のコロナ禍の中ではよりリアルに感じられるところもある。モノローグで話が進んでいき、登場人物同士の会話が少なく、ドラマというより小説を読んでいるような気もした。



天国フライト


飛行機事故に巻き込まれ、天国へのフライトを続ける機内に乗り合わせた男女の運命は? 蘇生処置が成功した男が、女と一緒に脱出しようと右往左往する過程が面白かった。



長浦スイカ


名産、特産に因むこども時代の想い出。とりあげられたのは、びわやいちごでなく「すいか」というのがいい。スイカ割り、夏の浜辺、縁台、夏休み、つぎつぎに連想がうかぶスイカ。物語がたちのぼる。

父のいる庭遺品整理のなか姉弟、父子の絆が丁寧な会話で描かれている。父(祖父)の心情が柚子の香のようにたちあがる。



献血車のシドとナンシー


献血は世のため人のため、巡り巡って自分のためにもなるってよ! 快調テンポのセリフの流れが心地よい。元気が出るポジティヴ志向のコメディ。シド&ナンシーの名前の由来とかは蛇足。終盤になって失速してます。



スーパー嘘つきじいちゃん


74歳の祖父は、ありもしない嘘を平気でつく。9歳の孫(女子)は、それを同級生からからかわれるので祖父を叱ってばかり。互いに相手から嫌われれていると思っていた2人があることがきっかけで…という話。冒頭からSEを利用し、祖父のキャラクターを明確に打ち出したのがうまいと思う。孫との会話も軽快で、ワクワクしながら物語が進む。SEに関しては、「体から水滴を垂らしながらアスファルトの歩道を歩く」をどのような音で流したいのか。ラジオドラマであることを常に意識してみてほしい。最後のシーンは2人の心情が丁寧に描かれていて、あたたかい作品になっている。



あかり、消さないで


蝋燭の火が点いている間死者と会話ができるという話。ありがちな設定ではあるが老婆の描き方や登場人物のキャラがわかりやすく描かれていて良かった。役者が楽しく演じられそうな点も◎



ポッペンの親心


妻に出て行かれた男にその母親が一計を案じる。先の読める展開だが、テンポの良い会話が面白く、最後まで楽しめる作品だった。



トルコライスな私たち


はじめは、九州のあるあるを語る会話が続いていて、それで終わると思っていたが、最後にあっと驚くどんでん返しがあり、それを最小限の説明で進めていたところがよかった。



ちりんとくん


起承転結があるストーリーで構成がしっかりしている。生き生きと描かれた人物が魅力的である。過去のエピソードも押しつけがましさがなく、主人公の心の変化に共感できた。ちょっとひねった「ちりんとくん」の居場所がほのぼのとした後味となり、好感が持てる作品だった。



消えぬまに


安易に人の死を扱った応募作は多いのですが、この作品は別モノ。長いセリフはオーディオドラマですと少々扱い難いのですが、筆者はそれも承知であえて長くしている様にも思えます。十分に書き慣れた方でしょう。



ナカタナカ


クシードライバーの田中が空港でユーチューバーのコーエイを乗せる。かつて2人は芸人を目指していたが、コーエイだけが有名に…という話。あらすじを知らないリスナーに、本編のみでキャストの名前やストーリーを伝える必要がある。コーエイがいきなり「中田」になると、リスナーは混乱する。早い段階で、中田と田中がコンビを組んでいたと情報提供しては。また、コーエイがドライバーがかつての相棒だといつ気づいたのか、そこを工夫してほしい。車内の物語ではSEが限られてしまう。タクシーなので急発進・急停車のSEは不自然。特に、コンビ結成の思い出の地に立つシーンで、そこがどこなのか分からないためSEの足音が想像できなかった。ラジオドラマとして分かりやすい効果音を意識してほしい。



牛喰って地固まる


例年、この絶叫大会はニュースでもやっているので、先の展開は読めるのですが、妹の絶叫は想定外でした。オーディオドラマでの絶叫はハマりそうです。兄の本当になりたい職業も良いですね。



素直じゃないんだから


子どもを思う親の気持ちと、親を思う子どもの気持ちが伝わってきてさわやかな印象。読後感がいいい。しかし少し物足りない気がした。



夜汽車を待つ下駄


の音よくあるタイムスリップネタだが、構成がしっかりしていて、現在と過去のつなぎ方が上手い。電車や機関車、そして軍靴や下駄の音などの効果音がドラマを引き立たせてくれそう。ただ情景描写として気になった点は、主人公がタイムスリップした駅は喜入駅ではなく、都会、もしくは東京駅のような気がしたところ。



君からの贈り物


ドラマの冒頭のニュースが伏線なのかと思っていましたが。(80代の祖父母の話かと…)孫の女の子と祖父母の交流が描かれている。なんかちょっと良い話でジーンときました。縁側でのやり取りから祖父は80代くらいかと思っていたら60代。年齢の設定を考慮するとより良くなるかもと思いました。



大悪党ラーメン


タイトルからしてどんな悪人が出てくるのかと期待したが良い意味で裏切られた。久しぶりにドラマらしい作品。女の子の変化が面白い。伊藤の背景を感じさせるとさらに良いと思う。最後のセリフは役者の演じどころで余韻を持たせるか…。演出家の腕の見せ所かもと思ったが、セリフの捻りがあるとさらに良かったと思う。



屋上の人々


2028年、主人公カイタは仮想空間に作られた町に住んでいて、毎日の戦死者を入力する仕事をしている。設定の面白さもあるが、さりげない会話の中に、作者の気持ちが詰まっている物語だと感じた。



結い奏のヴァイオリン


子どもの頃、母から厳しくヴァイオリンを指導されたため弾くことをやめてしまった陽子。大人になって5歳の娘を連れて里帰りした際、孫に優しくヴァイオリンの手ほどきをする母の姿を見て…という話。多くの応募者がSEで苦戦する中、楽器の音色をうまく使っていると思う。ただ「家の中を歩く音」はSEになりにくいので考慮されたい。もう少し丁寧に描いてほしかったのは、陽子に嫌われていると思い込んでいる母の心情と、孫に優しく教えている母の姿を見て、自分にも楽しく弾いていた頃があったことを思い出すシーン。この旅で、素直になって何を話し合うために帰省したのかが分かると、「ずるい」というセリフが活きてくると思う。



50日目の朝


一番気にいったストーリーであった。見えないもの(悪霊)とそれと対峙できる若い女性の霊能者、そして悪霊の母親である女性の祖母。構成もラストのオチがありきたりの、悪霊が成敗されたとか、無事に成仏したとかではなく、作者が実はこの悪霊に寄り添っていたのだと知り、ただの悪霊退治とは趣が違った。悪霊の悲しみが根底を貫いている。幼い頃母親に捨てられ、父親に虐待されながらも母親の愛情を求め続け、死んでなお魂が悪霊となって、母親の元にきたのに、その母親は最後まで生き別れた息子に愛情のかけらも残っていなかった。そんな祖母に霊能者の孫娘は、悪霊となった息子の想いを浄化して、祖母の体内に入れる。そして祖母の違和感は、それまでの息子の想いだと告げる。音が入った完成作を聞きたい。オドオドロシイ音だけではなく、様々な音や音楽で、聴く人の更なる共感を得るような気がする。



陣痛元の元


大絶賛!!!! この作品は最高に面白いです! プロフェッショナルな逸品です! 出産(分娩)と、やさぐれた言葉遣いと、すけべ心という、センシティブな素材でありながら、物語ははずんでいて、コミカルに描かれています。各所に笑えるフックがあり、それらがきちんと回収されていて、エンターテイメント性満点です! 何より登場人物のキャラクター設定がすばらしいです。セリフのキャッチボールが面白く、全員が”キャラ立ち”しています。オーディオドラマでセリフが音(声や演技)になったら、、、聴いてみたいです! 想像するだけでもニヤニヤしてしまいます。個人的にはこの作品に大賞をお贈りしたいです!



モモサン


鐘の音で始まり鐘の音で終わるストーリー。鐘の音は読者の心に、響いたと思う。いくつになっても子どもというものは、親にとって気になるもの、その気持ちがよく書けている。フィリピンのタガログ語で、幽霊のことをモモというそうだが、百恵のことを、「モモさん」とマリアが呼ぶところが面白い。



水面月


「日本昔ばなし」調のシナリオで、読み手(聞き手)にお話のテーマがわかりやすく描かれています。そこが好きです! 物語を描くテクニックのある作家さんのシナリオだなと思います。悪いことをすると妖怪になるのではなく、悪いことをすると人間になるという逆の発想が作者さんのセンスてすね。やや長めのシナリオなのでオーディオドラマにすると20分を超えるサイズかなと。



遠い日の記憶


母子の父に対する恐怖感が読んでるだけでも十分に伝わってきます。SEの使い方も効果的で、音が入るとさらに緊迫度も高まりそうですね。終盤まで緊張感をもって読ませてくれるので、最後にほっこりさせる終わらせ方もキレイです。「肩たたき券」の仕込みもいいですね。



ユーチューバーようか、糸島で源さんと出会う!


糸島が舞台。身近な地域であるので、情景が目に浮かんだ。ストーリーは今風でとても面白かった。源吉の方言がよくできている。ユーチューバーの若い女性ようかと、それを知らない世代の源吉。また、アクセントになっている「のど自慢」と出場予定の源吉。遅刻しそうで急いでいるがのど自慢に興味を持ち、無理やり車に乗り込むようか。しかし、工事中の道があったり遠回りさせられたり、諦めかける源吉だか、ようかに励まされ会場にギリギリセーフで到着。ようかはその過程をユーチューブ配信していた。やがてのど自慢の中継で、源吉は合格し遅刻しそうになった理由。妻の病気とか、ユーチューなんとかの若い女性に励まされたと語る。源吉の必死な想いが伝わり、完成品を聞きたいと思った。



海辺の腹鼓


今はない妻と娘、ふたりに先立たれた男が出逢ったのは幻想か、いまだ解明されていない彼岸の一端の現出か。作者の眼差しがあたたかい。



ターザンになった娘


田舎暮らしに居場所を見つけた娘(27歳)と、子離れできない父親(56歳)の他愛ないコメディ。ストーリーの流れに破綻がなく、最後までスッキリ読めました。



青くない海


10歳の雄介はコンクールに出す海の絵を描き、元美術教師の祖父に見てもらう。しかし、酷評されて口論に。仲直りできないまま祖父が病死してしまう…という話。SEで「1枚の画用紙を広げる」音は難しい。また時間経過と場面転換を表すのが「土の上を歩く」SEというのも効果がないので工夫してほしい。最後のモノローグが、とってつけたような感じになっているのがもったいない。祖父が遺した「人が何と言おうと、自分が見えた色を使って描け、思い込みで描くな」というテーマを、大人になった雄介がかみしめた方が筋が通ってまとまるのではないかと思う。



ペンギンの船


説明過多でストーリーの起伏に乏しくテーマもぼんやりしていますが、黄泉の世界を描いた、オーディオドラマならではの着想を評価します。



涙でにじんだ夕日


高校生男子と一歳年上の女子高生のやり取りが爽やか。前向きになるセリフも良かった。長崎が舞台で、夕日が沈むシーンに期待したが、特にどこの海でも良さそうなのがちょっぴり残念。登場人物はみんな良い人。個性を描き分けるとさらに面白いドラマになると思います。



湯布院で見~つけたっ!


『銀行員の松川は、社員旅行で訪れた湯布院で、捜していた元地下アイドルの女を見つける。親友の自殺の原因となったその女を許せない松川は……』タイトルの軽さからは想像できない重いサスペンス。誰一人、幸せになれない結末に気が滅入るが、人間の深層心理の闇をうまく描いている。



わたしたちの富士


とても読みやすい本です。短いセリフのつなぎも良いし、セリフ自体の区切りもいい。使われている言葉の一つ一つも韻をふまえて厳選された様にも感じます。筆者は相当な読書量をもとに、これらの作業を自然にこなしているのではないでしょうか。うらやましいセンスです。



夢見るカチャーシー


沖縄を舞台にした家族もの物語は、本来ならば物悲しいシチュエーションになりうるテーマでも、土地柄か気候柄か、島んちゅ気質か島唄の旋律なのか、陽気に収まるのがいいですね。天国へと旅立つオバアの心残りだった”後悔”が、”許し”に転じてよかったです。



クルスの海にて

ところどころにちりばめられた伏線が最後につながったことに工夫が感じられた。



高崎山月記


高崎山でもメス猿がボス猿になる時代。タイトルで「山月記」のパロディだろうと予想がついたが、それでも独特のテンポやセリフが効いて楽しめた。サルの鳴き声などオーディオドラマとしては面白いかもと思わせるところもある。ただ主人公が最後まで行動しない点がドラマとして残念かも。



緑光


思い出の旅行先でグリーンフラッシュを待つ間の父と娘の会話で成り立つシンプルな構成。問題を抱えた家族とその葛藤、ほろ苦い終わり方がなんともいえない。



日の出屋のごほうび


主人公と駄菓子屋の女主人、それに客の小学生たちの会話のテンポが心地よい。主人公の性格、他人とコミュニケーションをとるのが苦手というのが、実は小学生時代の駄菓子屋でのできごとがトラウマだったと、客の小学生たちの、駄菓子をめぐる会話で気がつく。九州という単語は、幻の焼きそばの味付けが、実はたまに入荷する九州産の甘い醤油であったというのは、少し弱い気がするが、会話のテンポと面白さが良かった。大人にとっても、このごろ駄菓子屋が密かなブームと最近報道されていたので、タイムリーかもしれない。



フロリダに風呂はない


『フロリダから一時帰国した植物研究者の紀明は、将来、日米のどちらで働くか迷っていた。迷いの元を見抜いた父親が紀明を銭湯に連れ出す』人生の節目で悩む息子に、父親が伝えたアドバイスが的確で温かい。人生の分かれ道に立った時、正しい道へと背中を押してくれる優しい物語。



ずっと……


関西的なエンターテイメントセンスが効いています。着眼点とユーモアとおかんとの会話がおもしろく、なによりもそこに愛があるのがいいです。読み手が肩に力を入れずとも物語の中に誘導される描き方。楽屋で主人公たちと一緒に過ごしている感じがしました。最後に暖かい気持ちになるのがうれしいです。



海底の舞


ダンサー志望だった兄弟。ダンサーへの憧れをバネに、隻脚のからだの兄とスッテプをふむ弟。ふたりの逞しい足音が、心地いい和音が、関門トンネルにひびく。海へ散骨された兄弟の父母に見守られるように。



青空の彼方から


『ほぼニートのオンラインゲーマーの航太。母親から認知症の祖母の介護を頼まれた航太は、祖母と一緒に戦争もののゲームを始めるが……』戦争で夫を失った祖母が、ゲームの中で夫に似た人物を捜す様は切なく心を打つ。祖母の姿を通して、航太が自分の人生に向き合い、前に進み始めるラストも良い。認知症の祖母と戦争ゲームを結び付けたアイデアはスゴイ!



ルリモハリモ


不思議な語感のタイトル。強烈な虐め描写。駄菓子屋おばさんの優しさ。印象に残る作品ですが、それらが導入部の人事異動とどのように関係しているのか分かりませんでした。



以上、48編



大賞 「ちりんとくん」青木 ドナ


大賞 「ちりんとくん」青木 ドナ」(茨城県)
大賞 「ちりんとくん」青木 ドナ

受賞者のことば

青木 ドナ (茨城県)


「大賞受賞のご連絡をいただき、こんなうれしい「まさか!」が私に訪れる日が来るなんて! 人間、長く生きてくればこんなこともあるんだなぁ、と、しみじみ思ってしまいました。選んでいただきまして、本当にありがとうございます。


昨今の世の中、まさに未曾有のおそろしい「まさか」が次から次へあっけらかんと登場しています。


異常なリアルに立ち向かうため、強くならざるを得ないけれど、人としての普通の感情が鈍化してしまったら、いやだなぁと思っていました。


応募作は、そんなことを考えながら今年の猛暑の中、書き始めたものです。大賞、素直にひたすらうれしく思います。書き続けたい、という気持ちへ背中を押していただきました。


実はシナリオの勉強、今年の春から久しぶりに再開したところ。このタイミングでの受賞に、改めまして、ご指導いただいている先生、そして貴重な意見をくださる同好の諸氏にもお礼申し上げます。


優秀賞 「青空の彼方から」 谷口 あゆむ


優秀賞 「青空の彼方から」 谷口あゆむ(東京都)
優秀賞 「青空の彼方から」 谷口あゆむ

賞者のことば

谷口 あゆむ (東京都)


一昨年、父が死にました。その日から父を思い出さない日はありません。何がしたかったんだろう? どこに行きたかったんだろう? 何を食べたかったんだろう? と考える毎日です。


生きているときは考えもしなかったのに、今は一つの身体を共有し、僕の中で生き続けている気がします。それは脚本も同じことなのかもしれません。書く人のものだけではなく、聴いてくれる人、演じてくれる人、音を作ってくれる人、携わってくれる人、みんなで共有し、感動、感謝できるものでなければならない。当たり前なことなのに忘れて書いていた気がします。


そのことを再認識して書いた作品が優秀賞に選ばれたことは本当に嬉しいです。


柏田講師、小説家の榎本憲男さん、大石さん、小河原さん、小島さん、八田さんそして、ゼミの皆様にも感謝しかありません。読み返してみても駄作だと思う「青空の彼方から」を選んでいただいた方々に恩返しができるように頑張っていきたいと思います。応援よろしくお願い致します。


優秀賞 「ア・イ・シ・テ・ル」 橋本 直仁



優秀賞 「ア・イ・シ・テ・ル」橋本直仁(東京都)
優秀賞 「ア・イ・シ・テ・ル」橋本直仁

受賞者のことば

橋本 直仁 (東京都)


優日曜日の昼下がり、カフェでゆっくりしながら、ネットサーフィンしてると、「南のシナリオ大賞」一次が発表されていて、運よく通過した私の作品の短めのコメントを読んで、この後は難しそうだなぁと思った瞬間、知らない番号からの着信。


「優秀賞です!」驚きと、喜びと、猜疑心と、疑心暗鬼と、色んな想いがごちゃ混ぜになって、とても心地よい気持ちになりました。


審査員の皆様、優秀賞にしていただき、誠にありがとうございます!


九州は仕事でも縁があって良く訪れていたのですが、コロナもあって久しぶりなので、表彰式で行けるのが楽しみです!


よろしくお願いいたします!





総評


これから始まり。


日本放送作家協会九州支部長

審査委員 盛多直隆



第16回南のシナリオ大賞には 276通の応募がありました。一次審査、二次審査、最終審査を経て、大賞一編、優秀賞二編が決まりました。一編、一編をじっくり読ませて頂きました。そこには、応募された方々の思いを感じとるが出来ました。同時に作品の平均化も感じました。どれもが同じ顔に見えたのです。こんなとんでもない発想をするんだ。そんな作品が見あたらなくなりました。もっと自由に枠を越えた作品に出会いたいな、と思っています。


さて、大賞は、「ちりんとくん」の青木ドナさん。行方不明の姉から6歳の甥を預かり、心を通わせていく物語。6歳の子どもの素直な気持ちに癒されました。


優秀作には、「青空の彼方から」の谷口あゆむさん。戦争もののオンラインゲームに92歳のおばあさんが戦争で亡くなった夫の姿を探して行きます。悲しくも次へと向かっていく孫に共感しました。


次は、「ア・イ・シ・テ・ル」の橋本直仁さん。近未来であるウィルスに感染した男の物語。完治することなく悲劇的な結末を迎えます。今のコロナ禍と重なってしまいました。


受賞された方々は、今、まさにスタートラインに立ちました。自分の思い通りにならないことが起こり焦ってしまうかも知れません。ですが、しっかりと前だけを見て一歩づつ歩み続けてください。


第16回 南のシナリオ大賞 表彰式

  • 日時:11月12日(日)15:00~16:30

  • 場所:アクロス福岡(福岡市中央区天神)


表彰式出席者


第16回南のシナリオ大賞 表彰式出席者記念撮影
第16回南のシナリオ大賞 表彰式出席者

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