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第十八回南のシナリオ大賞最終審査会ドキュメント

第十八回南のシナリオ大賞最終審査会ドキュメントをお送り致します。


二次審査通過作品を改めてご紹介します。


  1. わたしたちの選択

  2. 私の声が嫌い

  3. お年寄りのひとりごと(一人芝居)

  4. ファスナー

  5. 真夜中の母と子

  6. きらめく丘

  7. 山田さんのいない夜に

  8. 庭を見る二人

  9. スカブラ

  10. 新機能、かーちゃん


 
審査会風景です
審査会風景


【わたしたちの選択】


盛多:正晴がどういう格好をしているのかわからなかった。セリフ上に一度も出てこないし……。ラストで可愛い服を買いに行くというというセリフがあって「女装家?」ということがわかるんですが、じゃあ、なんで女装家になったの? という疑問が湧く。もう少し突っ込んだ設定が欲しかったですね。


町田:私も正晴の格好が気になりました。あと、正晴の奥さんの存在が素敵なんですが、奥さんの話は正晴の説明だけなので、もったいないと思いました。


日高:正晴が女装をしていることは書かれてないですが、これは聴く人に委ねられてるのかなと思います。それぞれが正晴の姿を思い描けばいいのかなと。全体を通して聴きやすいシナリオだし「夢をあきらめるのに遅いことはない」というメッセージ性もあるので、いい作品だと思います。


盛多:聴く人が正晴の姿を想像すればと言いますが、ラストの「服が可愛い」というところに落とし込む為には、正晴が女装をしていることをふってないとラストに効いてこない、落ちない……と、私は思いますね。


松尾:読みやすくてまとまった物語だと思いました。時代を反映したLGBTネタもあるし、人生につまずいている登場人物達がお互いを認め合って、ネガティブからポジティブになっていく温かい物語です。気になったのは、正晴に凜がいきなり声をかけて急接近するところです。そこまでの行動力が凛にあるなら、美容師の学校のパンフレットくらい取り寄せていそうな気もしますけど……。


香月:基本的に人権番組みたいな感じだね。こういうメッセージドラマは南のシナリオ大賞に合わないんじゃないかな……。これはメッセージドラマなんだよね。作品には芸術的な香り……個性が必要でしょ? それが欠如してるんですよ。最初に男女のカップルが出てくるでしょ? あれ、説明する為に出してるでしょ? 必要ないよね。二人が初対面なのに、いきなりディープな距離感になるのも不自然に僕は感じました。セリフに魅力がないよね。


盛多:ディープにする為にセリフが説教くさくなっちゃってる。


香月:そうですね。


盛多:文章の中に「陰口を聞く」ってあるんですが、これはどうですか?


香月:まぁ、あまり馴染めないですね。


盛多:ひとつ馴染めなくなると、実を言うと、セリフが全部説教調に思えてくるんですよね。


香月:そこはかとない味わいみたいなものはあるんだけど、魅力になってないんですよね。ただ、この物語が大きな問題提起をしていることは間違いないですね。あと、細かいことだけど、笑というのは、普通(笑)と書くでしょ? 最近、ラインとかで()を使わない若い人もいますけど、つけた方がいいですね。セリフと思って読んじゃうから。


 

【私の声が嫌い】


盛多:僕の中で評価高いんですが、主人公の母親が、どうして出て行ったのか、理由がわからないんです。書いてない。


香月:このドラマにおいては、そこは重要なポイントですよね。


盛多:男ができて出て行ったのかな? という想像はできるんですよ。母親が亡くなった話をする父と娘の会話が冷たいから。あなたを生んでくれた人が亡くなったんですよ? と思うんだけど……だから、男ができて出て行ったのかと勘繰っちゃうんですけどね。その割には父親は母親を好きだったと……え?って思う。


香月:僕もこの3人の距離感が、気になっちゃった。


盛多:母親の葬式にも行ってないし、この距離感がつかめない。

ただ、物語としては、よくできています。


香月:僕は最高得点をつけたんですよ。これはね、いい役者さんが演じれば、魅力たっぷりのドラマになりますね。味があるんですよ。作り甲斐がありますね。でも、僕に作れと言われたら逃げますけどね(笑)。


町田:手話をラジオドラマに持ってきたアイデアが凄いと思いました。普通、考えつかない。私も主人公と父親、母親の関係性がよくわからなくてモヤモヤしましたね。主人公の瑞貴が、聴覚障害の青年に自分の声が嫌いだと打ち明けるシーンがあるんですけど、その時、青年が「(声は)きみに似合ってる」と瑞貴に言うセリフが好きです。ラストもいいですね。いい作品だと思います。


松尾:しっかり作られてると思います。オーディオドラマをしっかり理解していると思いました。テンポも良くて、オーディオにもいいけど、読み切りの漫画にもいいなと。細やかな情報が織り込まれていて、きちんとリサーチがなされていると思います。ただ、シーンが多いので、聴き手の耳がついていけるかな? 制作側の手腕が問われる気がします。


日高:私も皆さんと同じように、読んだ時に「好き!」と思いました。ラジオドラマで「声」そのものを題材にするということが、今までありそうでなかった感じがして……。しかも、嫌いな自分の声というものを題材にした点が、とてもいいと思いました。手話の部分は主人公のモノローグと、聴覚障害の青年とのやりとりで表現しているんですけど、自然とわからせることができています。ただ、展開が早すぎるところがあって、もっとじっくり聞きたいと思いました。なんだか、1時間ドラマのダイジェスト版のような感じがしました。


盛多:香月さん、細かいところで気になる点はありますか?


香月:回想シーンで14歳のところがあるんだけど、登場人物表には書いてないんだよね。説明がなくて急に14歳がポーンと出てくるわけ。それから両親の離婚理由と自分の声が好きになった展開がはっきり繋がってこないよね。構造的にはわかるけど、情感的にはピンとこない。一番大事なのは「FM宮崎」という実名が出てくる点。これはまずい。「FM日南」とか、実際にはない放送局名に変えないといけない。あと、演技が難しいだろうね。演技も編集もね……音域を調整したりしないといけないだろうし。


盛多:キーポイントになるのは、聴覚障害の岸田さんなんですよね。岸田さんが物語の転換点で必ず出てきているので、岸田さんと主人公の会話をどうするのか……。誤ってはいけないのは、聴覚障害の人の喋った音はどうするかということですね。


香月:(耳の聞こえない人は)ここ(喉)に手を当てて、その動きで覚えるんですよ。だから、ロボットが喋ってるみたいな……。


盛多:そうなんです。NHKのドラマでも、ロボットの声のような感じで……。それが正解なんだけど、すごく聞き取りにくいんですよ。


香月:それと、それが本当に事実かどうかという検証も必要だしね。そういう問題に詳しい人もいるからね。そういう人達に質問された時の為に、きちんと調べて背景を作っておかないといけない。


盛多:やってみたいという気持ちは確かなんですけど……。


香月:大きな問題点はいくつかあるけど、作りたい魅力がありますね。


日高:私は父親のことも気になりますね。母親のことを嫌いって言ってたのに、実は好きだったと。よっぽど愛してたのかな? と思いました。


盛多:芝居が難しいのは、(主人公が)14歳の時のお父さんと今のお父さんが繋がってないといけないんですよ。この時は嫌いでした。ここは好きでした……これはやれないんですよ。あと、ラストはアナウンサーでいいのか? とか。まぁ、これしか思い浮かばないんですけど……。


 

【お年寄りのひとりごと(一人芝居)】


日高:これは一人芝居である必要があるんですかね? 作者が書いてみたかったのかな? 落語みたいですよね。


盛多:妙に面白かったですね。でも、やっぱり死んでたのか! という、この手のラストは、ラジオドラマでいっぱい聴いているんですよね。


香月:僕も面白かったという評価です。ただ、一人芝居という必要があるかどうかなんだけど。ずっと付いてくる男がいるじゃないですか? あの男との二人芝居にしても良かったですけどね。


日高:そうすれば、この若い男の正体や背景も見えてきて、ドラマが深まったかなと思います。


盛多:(演じられる)役者がいるかな? 落語的な話術ができる人が……。


町田:この若い男っていうのは、結局、どういった関係の人だったと、皆さんは思われますか?


日高:それがわからないんですよ。父親に似てるってことしか。


盛多:父親に似てるから、見えるの? 聞こえるの? っていうのもね……。


松尾:なぜ、この人にしか主人公が見えないのかわからなかったですね。


町田:最初、若い男も死んでるのかな? と思ったんですけど、ラストで引き戸を開ける音やリンを鳴らす音が入っているので、死んでないなと。


盛多:しかもタクシー乗ってるんですよ。


香月:その辺がちょっとわかりにくいですね。


町田:でも、一人芝居の応募作を初めて読みましたけど、ほぼ主人公のモノローグなのに、15枚が長く感じず、引き込まれました。力のある作家さんだと思います。ただ、ラスト、もうひと捻り欲しかったですね。

日高:私も同じです。もうひと捻りあると思ってました。


香月:僕は高齢だから、こういう作品を読むと、ジーンとするんだよね。そういった意味では個人的には面白くて引き込まれました。


盛多:確かに面白いんですけど、表層的にしか流れていないような気がしてて、例えば免許書を返納した時の状況に関しても、もう少し突っ込んだ話を書いてもらいたいなと。深い部分に入ってきてない。もっと突っ込んだら、もっとドラマ性が出てくるんじゃないかなと感じました。


松尾:自分が亡くなったことを知ってからのセリフが長いですよね。そんなに説明しなくても……と思いました。


日高:私も気になりました。(死んでることに)驚いてるの? 悲しんでるの?

どういう気持ちで話してるの? と。


香月:面白い作品だけど、細かなところで色々気になる点がありますね。



 

【ファスナー】


松尾:あらすじ読んだ時点で、1番、琴線が震えたのがこの作品です。「面白いのきたー‼」と思って読んでたら、オチが……「(ファスナーの中身が)見えないの?」って……。もうちょっとドラマティックなファンタジーの世界に連れて行って欲しかったです。あらすじのパンチが強くて期待が大きかっただけに、オチが弱くて悔しかったです。


町田:ファスナーの中に何が入っているの? という、今まで読んだことのない設定にギョッとしました。ファスナーを開けようとする主人公のハラハラドキドキが伝わってきました。感動するような物語ではないけど、一番、面白かったです。最後は聴く人に委ねられた感じですかね?

日高:最初、旅行鞄を開けるファスナーの音から始まって……。最後まで聴くのを止められないところは(この物語の)いいところですね。


香月:僕は個人的には、この作品大好き! 読んでたらBGMまで聴こえてくる感じ。ただ、最後が尻すぼみでもったいないですね。

日高:最後はどうしたらいいんでしょう? 思いつかない。


香月:もっとすごい世界に連れて行ってもらいたかったですけどね。前半は満点ですね。かなり書き慣れていますね、作者は。


盛多:最初に読んだ時に「これ!」っと思ったんですが、途中、気になったのは、夢の場面と現実に戻るところの境目がよくわからない。それと登場人物3人の関係性がよく見えない。もう少しこの3人の関係を整理する必要があるかな。確かに、最後のファスナーを開けるとことか、このゾクッとさせる関係を作りたいという欲望はありますね。


香月:作者も最後は、良いアイデアが浮かばなかったんじゃないですかね?


日高:私もそう思います。アイデアは浮かんだけど、オチまでは思いつかなかったんだと思います。


香月:ファラオでごまかそうという感じがありましたね。


日高:私もファラオは、あまりグッとこなかったです。といって対案がないから残念なんですけど。


盛多:作ったら面白いかもしれないですけどね。


香月:ただ、危険な作品ですね。


日高:危険と言うと?


香月:これを配信するとするでしょ? すると、南のシナリオ大賞というものの評価が問われるんですよ。面白いけどアイデア作だからね。


盛多:確かに、面白いで済ませるわけにはいかないかもしれないですね。


香月:この作品には現実的な問題提起というものがないでしょ? アイデアはあるが、力作ではないというかね。ただ、秀逸ですよ。


日高:背中にファスナーが付いてることが、何かの象徴であったり、何かを表わしているのかな? と、一生懸命、深読みしたんですけど、浮かばないんです。


香月:そうなんですよ。ファスナーを開けたら中身がなかった。皮だけの恋人だったというふうにして、それから物語を広げていくと、もう少し重い話にもなったと思うんですけどね。



 

【真夜中の母と子】


盛多:単純にベタだなと思いました。先が読めちゃうんですよね。


香月:僕も同じことを思いました。


町田:ベタですけど、読んでいてジーンとしました。こういう展開の作品はよく見かけますけど、音の入れ方が心の描写と合っていて上手だと思いました。


日高:私もいい話で上手いけど、よくある話という感想です。でも、音やセリフが上手だと思いました。主人公が関西弁なので(作者は)関西の人ですかね?主人公と同年代なので、感情移入はできました。


松尾:登場人物が二人とも関西弁なので、感情がストレートで、会話に温度感を感じられました。よくある話ですが、上手く設定されていると思いました。一番もったいないと思ったのはタイトルです。タイトルが重いというか……もっと素敵なタイトルはなかったのかなと……。


香月:タイトルはそう思いました。でも、これ、ある種の雰囲気は持ってますね。ただ、けっこう中身が込み入ってるので、ラジオで一度聴いて、わかるかな? 僕がコメントで書いているのは、出だしが丁重でドッキリ感がない。会話が日常的すぎると……。


盛多:読んだことある、見たことあるという既視感が、ずっと付きまとって離れないんですよ。


香月:途中、泣かせるところがあるじゃないですか? そこは半分は買うけど、全部は買わないかな……。


盛多:全体的に古いんですよね。セリフでピンとこないところもありますね。セリフを書く時に迷いがある気がします。


香月:練り上げて練り上げて書いたセリフじゃないですね。


盛多:練ってないから、セリフが響かないんですよね。


香月:以前、三谷幸喜氏が書いてたけど、「次のセリフを書く時に5分間考えてくれ」と。


盛多:私も、昔、それ言われました。


香月:それと作品の中に効果音がたくさんでるけど、きれいな音がないんですよ。やっぱり、ラジオドラマは、涼やかな音が聴きたいですよね。



 

【きらめく丘】


町田:読んだ時、久留米弁が強すぎることに違和感を覚えました。今の21歳の子が「ばってん」とか「ほんなこつ」とか言わないと思うんですよね。いい話なんですけど、どうしても気になってしまいました。それと、ケーキ屋で働く主人公が、愛想よく接客しながらも、心では客を罵倒してるんですよね。この設定が面白い! と思ったんですけど、これは最初だけで、途中から主人公のそういうモノローグがなくなったので、そこも気になりました。


盛多:これはいつの話だろ? 今かな? だとすると、筑後川の氾濫で死者が出たのは昭和28年なんですよ。その後に久留米の水害で死者が出たことはないんですよ。1953年に筑後川が氾濫して、100名以上が亡くなったということが事実としてあるんですが、その後はないんですよね。


香月:ないんですか?この間あったような……。


盛多:大分の筑後川の支流の方で50数名が亡くなったという災害があるんですが、久留米ではないんですよ。問題なのは、今はググれば出てくるんですよ。昔と違って今はドラマ上の嘘は無理なんです。ネットで調べると、すぐに事実が出てくるから無視しちゃだめなんですよ。


香月:ドラマで言える嘘と言えない嘘があるからですね。事実と違うのであれば、捏造になりますから。


盛多:あともう一つ気になったのは、「死んだら別の世界に行く」というセリフに宗教性が感じられることです。チベットのダマイラマが「死ぬのが待ち遠しい。次の世界があるから」と言ってるんですが、それをここでやっていいのかどうかということです。


町田:その考え方は仏教の世界でもあるので、私は抵抗はないんですけど、災害の事実が違っているのであれば、よくないですね。


盛多:仏教もそうですが、それをここでやっていいかどうかなんですよ。別の考えの宗派もあるので……。他の方、感想をどうぞ。


日高: 21歳の若い子が、こんなにガッツリ久留米弁を話すかな? こんな年寄りみたいな方言を使わないだろうと、私も違和感がありました。九州の自然災害を取り上げた点では、勇気あるチャレンジで地域性もあるし、よかったんじゃないかなと思いました。終盤の主人公が筑後川に対して持つトラウマを超えていこうとする心の葛藤はよく描けていると思いました。私も、主人公が最初にモノローグで悪態をついていたのに、途中から別人のようにいい子になるのが気になりました。


松尾:私も方言が気になりました。これ、久留米弁だけじゃなくて北九州弁も混じっているんですよ。よく久留米の高校生と話すんですが、今の若い子は全く方言を話さないですね。


町田:きっと調べて書いてくれたんですね。以前の最終審査ドキュメントで「方言を入れた方が―」というようなコメントもあったので……。


松尾:それと福岡市と久留米の距離感って、とても近いんですよ。筑後川を越えるのにトラウマがあるのはわかるんですが、こんなに近いのに頑なに久留米に帰れないと拒否する感じが引っかかりました。あと、セリフとかがちょっとまどろっこしい。最初は毒を吐く主人公のキャラなので、心情的な空気感はわかるんですが、このまどろっこしさは、この子のキャラじゃないなと、後半にいくほど、そう思いました。


香月:セリフがあまり上手いとは思わなかったですね。あと、筑後川がトラウマになっているわけでしょ? 母親と猫が亡くなった。関連的なものはわかるけど、情感としてピタッとこない。大切な母親と猫が川に流されて、それを目撃した主人公が立ち上がれないほど苦しんでいる。だから「川が嫌い」というトラウマ感がしっかり描写できていないんです。作者の純粋な気持ちはよくわかるんです。でも、もう少し作者が心を鬼にして捻って欲しかったですね。



 

【山田さんのいない夜に】


町田:死んでしまった山田さんの話で繋がっていく、今までにないような作品。一番気になったのが、主人公の夫がすんなり離婚を承諾したところです。説明セリフが多い点も勿体ない。例えば、モラハラ夫に怒鳴る山田さんのセリフがあっても良かったかもしれません。ラスト近くでみんなが山田さんの本の話をするところ、カエルがいるラストシーンは温かい感じで良かった。発想の面白さは評価します。


日高:なんだか不思議な話。ミステリアスだが温かさもあり、音の綺麗さも好印象です。ですが、やはりモラハラ夫が急に別人のようにいい人になったことに違和感を覚えました。なぜ山田さんが主人公のためにあんなに動いたのか、「雨男の逆襲」の本の内容もわからず、少しモヤモヤが残りました。


松尾:おそらく「雨男の逆襲」は山田さん自身の投影で、一見冴えない人が実は周りの人を気遣い、主人公を助けるパワーもあることを表しているんだろうとは思います。徐々に山田さんのいい人具合が明らかになっていくのは良かったし、ラストも温かい気持ちになりました。ただ、とりわけ強く印象に残る作品ではなかったです。


香月:ストーリーがわかりにくい。ゴチャゴチャしているし、先を聴きたいと思わせる魅力に欠けます。最後のカエルが山田さんとするなら「茶色のヒキガエル」ということになって、(聴く人が想像する)イメージが美しくありません。もっと山田さんをチャーミングに描いて欲しかったです。


松尾:それと、登場人物が多いですね。


香月:タイトルには点をあげたい。


盛多:説明ばかりで感情の流れが見えてきません。トマト缶のエピソードも、どう繋がるかと思ったら何もない。いろいろあり過ぎるけど回収できていない。最後のセリフ「山田さん?」も、これでいいのか、という感じ。不思議な話だけど、すべてが中途半端と感じましたね。


香月:書き手には書きたいことを燃焼してほしい。撚りあげれば、最後に光るものがあるはず。カエルがシンボルとなる作品なのに生かされていないですね。



 

【庭を見る二人】


町田:ゆったりと時が流れるような作品。ただ何度も読み返したら、この家は借家ということがわかって。そう考えたら、この雪子さんという人はかなり我儘で困った人と思えてきました。いろいろ食べ物が出てくるのは良いですね。木の下に埋められていたのは何か、最後までわからない。とても気になります。

日高:不思議な話だと思いました。埋められたものが明かされないまま思わせぶりに終わるのはモヤモヤしますが、好きな作品です。特徴的なのは、登場人物全員に真剣味がないんですね。それが一つのトーンになってこの作品の魅力になっている。雪子さんはかなりしたたかで、立ち退き依頼をのらりくらりとはぐらかす。ちょっと怖いくらいです。


松尾:登場人物3人のキャラが立っています。ドラマ『正直不動産』を彷彿させました。音の使い方でコミカルにもなるし、ミステリアスにもなりそう。雪子さんには、家族の気配がしないですね。40年間住んでいるとしたら、28歳からこの家に住んでいるということになりますが。「手を離してはいけない」のは木の下に埋まっているものなのか、この家のことなのか。作者に聞いてみたいです。好きな作品でした。


香月:セリフがうまいですね。優しいけれど怖い雰囲気もある作品。でも、ちょっとのんびりしすぎかな。そして、埋められているのは何かですが、あまりにも手掛かりがなさ過ぎる。もう少し的を絞るべきで、リスナーに対して不親切です。全体的な評価は高いですが、そこは残念です。


松尾:上司である柳の「孫か!」のツッコミに笑いました。


日高:「老人の生命力をなめんじゃねえよ。あいつらは誰より長生きなんだよ」も良かった。


香月:「ムクゲ」の木が絡んでくるのも面白い。


松尾:鎌倉時代の仏教説話集にムクゲと死者の話があるということですが、作者はそれを知っていてこれを書いたのかどうか……?


盛多:仮に、このラジオドラマを作るとなると、リアリティーを求めるのではなくて……聴くものの予想を裏切るというか。地上げ屋だからゴリゴリ来るだろうと思ったら全く違ってのんびりしている。それが魅力でもありますね。役者を選んでみたい、そんな気持ちになる。


香月:演劇でいうと、前に紗が掛かっているような雰囲気がある。ラストがもう少しピリッとしていればなあ。『ファスナー』と一緒。


松尾:この作品はファンタジーですね。


香月:ストーリーじゃなくて情感で演出して、夢みたいに喋らないと。


日高:私が雪子さん役でイメージしたのは八千草薫さん。


町田:雪子さんの年齢ですが、設定では68歳だけどもっと年上、75,6歳のイメージです。柳も35歳じゃなくて50代かなあ、と思いましたね。



 

【スカブラ】


町田:セリフはうまいし動きもあって、この作者には力があると感じました。老人と介護士の話はよくあるけれど、介護士翔一のキャラクター(仕事はあまりできないけれど老人たちに心を寄せる)が良い。セカセカして効率を求める社会に対して、問題提起しているのでしょうね。雷や炭鉱のシーンなど、迫力ある音のドラマになると思います。


日高:温かい気持ちになる作品。古賀と翔一の会話のテンポが良いです。2人とも憎めないキャラですね。話の流れも自然でした。「スカブラ」という言葉は知らなかったけれど、このように周りを和ませ、気分転換させてくれるような人も社会には必要なんだと思えました。


松尾:認知症と介護は多くの人が直面するテーマ。そのなかで翔一のキャラクターと炭鉱の「スカブラ」を結び付けたのが巧妙ですね。舞台の脚本のような感じもします。少ない登場人物のなかで、うまく状況が読み取れるようになっている。ところで「南のシナリオ大賞」のオーディオドラマを聴く年齢層はどのくらいなんでしょう? 若い世代がこの作品の良さを分かってくれるでしょうか。私はこの作品、好きですが。


香月:これね、スカブラが脇役になってるでしょう。ドラマの性質として、古賀が主人公だと「スカブラ」を紹介する話になっちゃう。翔一が主人公の方が良かったんじゃないかな。翔一の働く施設に元炭鉱夫の古賀が入っていて、関わっていくなかで炭鉱事故の悲惨な話があったり、「スカブラ」が皆を明るくしたっていう話の方が。目指しているのが非常に温かい世界なので、そこは良いと思うけど、ちょっと設定がね。あと、主人公とするには古賀に魅力がない。何かクセがあって、そこが翔一と合わないとか。温かい作品だけど物足りない印象で、テーマがはっきり見えてこない。それと「昌枝さん」が2回出てくるんだけど、何の説明もなかったですね。


盛多:僕には、この作品は何も引っかかってこなかった。僕は小さい頃三池炭鉱の事故を身近で体験しているから、悲惨さを知っているんです。それを単純に落盤で片付けて欲しくない。そういう個人的なこともある。まとまり過ぎてつまらないし、セリフが説明にしか聞こえないです。



 

【新機能、かーちゃん】


町田:発想は面白い。私も母親なので、自分が死ぬときに、離れている息子に想いが行くのはわかります。ただ、主人公孝輔の、母親が倒れたのにあまり心配もせず、会いに行かないのには違和感がありました。帰れないほど仕事が忙しい感じもしない。「姉ちゃんはああ言ったけれどやっぱ帰ろう」、そこにスマートスピーカーから「仕事頑張らんね!」と母親の声が流れてくるとかなら、しっくり来たかもしれない。「卵かけごはん」を教えて逝った、最後まで「母親」だった、その気持ちを思うとジーンとします。説明ゼリフが多いのとダラダラ長いことが残念。もっとコンパクトにして感動させられたのに、と思います。


日高:映像作品のようなト書きが気になりました。去年の創作ラジオドラマ大賞「父さんが会いにきた」にちょっと似ている。もしかしてアレから発想を得たのかな。「かーちゃん」の声は最初「機械風」で、亡くなってからは「人間らしく」と指定があるんだけど、それが果たして効果的なのかどうか? 最初から人間的な方が面白いんじゃないかなと思ったりしました。卵かけごはん、最後のシーン、感動的なはずなのに、あんまり

感動できなかったですね。


松尾:スマートスピーカーからおかあさんの声が聞こえるという発想は面白い。例えば、たった一言「頑張るんよ」だけが幻聴のようにおかあさんの声に聞こえて、後は機械風であっても良かったかもしれない。「え? かあちゃん?」と聞き返すも、やっぱりスピーカーだった、と。その方が効果的かな。途中から、このおかあさんは亡くなるんだろうとわかったから、終わりが見えてしまったというのはありました。


香月:ストーリーがうまく流れていかないんですよ。努力しないとついていけない。それと、これスマートスピーカーよりお喋りロボットの方がいいですね。お喋りロボットって、学習して話すようになっていくから。発想は面白いけど、こなれてないですね。


盛多:表層的な感じ。僕には引っかかりませんでした。創作作品って、作者がこれまでどれだけの本を読んだか、映画を見たか、そういうものが蓄積されて出てくるんだけど、それが感じられない。書くための努力をあんまりしていないんじゃないかなあ。


香月:ドラマって、言葉の裏にもう一つ言葉があるもの。それがないと引きつけられない。


盛多:その裏を想像させる書き方をしてもらわないと。浅いですね。


香月:よく言われる「人間が書けてない」。


松尾:ちょっとお色気シーンも入れてみた。


香月:この美咲ちゃんシーンは要らないですよ。


 

( 休 憩 )


盛多:それでは受賞作品を決めたいと思います。選ぶ基準としては大賞を1本、優秀賞を2本です。それぞれが、大賞と思われる作品に◎を、優秀賞と思われる2作品に〇をつけてください。いや、自分は優秀賞を3本選びたいと思えば、優秀賞を3本選んでもかまいませんし、1本しか選ばないよというのであれば、それでもかまいません。では、投票していきましょう。



 

得票結果

 

わたしたちの選択

0点

私の声が嫌い

7点

お年寄りのひとりごと

3点

ファスナー

8点

真夜中の母と子

0点

きらめく丘

0点

山田さんのいない夜に

0点

庭を見る二人

8点

スカブラ

2点

新機能、かーちゃん

0点


盛多: 集計がでましたが、どうしましょう? 消去法でいくのか、票が集まっている作品に決めるのか?


香月:点数のとおりなら簡単には出るけどね。


盛多:そうなんですけど……うーん……。


香月:いつだったか、直木賞の選考会で、点数どおりに決めることに対して、選考会はコンピューターでいいのか? という意見が出て、またそれから議論が始まったということがあります。


日高:昨年も、これ入ってないけど落としていいのか? という意見が出て、一つずつ見直していきましたよね。


香月:皆さんの意見を聞いたらどうですか?


町田:決め方は、(審査委員長の)盛多さんに一任します。


盛多:これまでの受賞者の方達って、受賞後にそれぞれ活躍しているんですよ。南のシナリオ大賞は、完全にシナリオライターの登竜門になっています。受賞することで、その人の人生が、ちょこっと変わるような気がして……選ぶのが恐いんですよ。妙な言い方をすると、「自分が選んでいいの?」って思ってしまうとこがあるんですよ。(審査員一同頷く)


松尾:票が集まってる作品は、もう既に書かれている人じゃないでしょうか?書き慣れてますよね。


盛多:ですね。ある程度、シナリオ教室で、書き方を徹底しているんでしょうね。どの作品も原稿が見やすいので……。さて、どうしよう……。


日高:今、◎がついている作品が3つあるんですけど、すんなりいくなら、その3つのどれかが大賞になるのかと思いますが……。


香月:その3つは妥当な線ですね。(賛成の声あり)


盛多:『私の声が嫌い』は、出て行った母親のことが気になってしまって、どうしても(大賞に)押せないんですよね……。


町田:私は『ファスナー』が好きですが、この3つの中では『庭を見る二人』が大賞かなと思います。雰囲気があるし。『ファスナー』は、設定は面白いけどメッセージ性がない。でも、『庭を見る二人』のメッセージ性って何でしょう?


盛多:『ファスナー』と『庭を見る二人』を比べたときに、背景にある重さが全然違う。『庭を見る二人』は、おばあさんと不動産屋の男たちの攻防とも言える。それに対して『ファスナー』の若者3人の背景は何か、ちょっと考えにくい。


町田:そうなるとやっぱり『庭を見る二人』でしょうか。老婆の年齢がね、75歳位でないといけないかなと思うんですけど。


日高:でも、ラジオドラマを聴く人は脚本に設定された年齢のことはわからないですよ。


香月:今3つ残ってるじゃないですか。ひとつずつデメリットの点数をつけていっては? でも、直観的には僕も『庭を見る二人』かなあ。


盛多:昨年の『魔法のシュークリーム』は音を中心に作られていて魅力があった。ドアのノック音から始まって。


香月:可愛らしくてチャーミングでした。


盛多:けど、そういうものが今年はないですねえ。『スカブラ』に点を入れた町田さんと日高さん、3作品と比べてどうですか?


日高:3作品の上には行けないと思います。


町田:メッセージ性があるので良いとは思いましたが……。


盛多:『お年寄りのひとりごと』に点を入れた香月さん、どうですか?


香月:いえ、もう3作品に絞りましょう。


町田:どれも飛び抜けてなくて同じくらいの感じ。


松尾:テイストが違って迷いますね。


町田:『ファスナー』は誰も考えないような作品。どこのラジオドラマにもないです。メッセージ性はないかもしれないけど。

盛多:メッセージ性をどう捉えるかの問題で、『庭を見る二人』もメッセージ性はない。でも、セリフの裏にあるものが想像できるから役者に演出しやすい。『ファスナー』だったら役者に言うことは何もなくて「遊んで―」「楽しくやって」という感じ。キャスティングは楽だけど。『庭を見る二人』の老婆役は誰にするか……。


松尾:上品なおばあちゃまで。


日高:上品だけど裏があるみたいな。


香月:『ファスナー』と『私の声が嫌い』は作るのが難しいということでしょ? 


盛多:『私の声が嫌い』は、おかあさんの存在をどうしようかなあというのはあります。リライトせずにこのままだとちょっと難しい。


香月:「エフエム宮崎」の件もありますね。


盛多:役者が聞いてくるんですよ。「このおかあさん、どうなんですか?」と。答えられない。ただ一方、手話のこの話をどう作るの? という興味は持たれる気がしますね。どう作っていいかわからないけど。手話協会か何かに協力してもらわないといけないかも。


町田:3本の中では一番メッセージ性があるように思います。


香月:手話も確認しないといけない。方式がいくつかあるから。


盛多:耳の聞こえない人の発する音も、どんなふうなのか調べないと。


香月:間違ったらアウトだから。


盛多:「ドラマ上の嘘」が通用しない時代になっている。


町田:盛多さんが制作に関わるので。盛多さんが一番作りたいと思う作品はどれですか? 作るのが難しいとか条件は抜きで。


盛多:難しいなあ。一番作りたいと思ったのは『お年寄りのひとりごと」。

これをこなせる役者がいればの話ですが。


香月:作りやすくて結果がわかるからでしょ。


盛多:そう。それに対して『庭を見る二人』も『ファスナー』も最後の肝心なところをぼやかしてしまっている。それでいいの? って。2つとも、ラストを曖昧にしたからできた作品なんですよねえ。

日高:確かにそうとも言えますね。


盛多:『お年寄りのひとりごと』は落語みたいなんですが、落語ってこんなに面白いんだって最近やっと気づきました。


香月:今若い人にも大人気ですよ。YouTubeにもたくさんある。


盛多:やはり『庭を見る二人』か。すごく「間」が大事になりそう。


松尾:「鳩時計」の音はあるけど、それ以外に音楽的なものがシナリオに書かれていない。だから音次第でサスペンスにもなるし、コミカルにもなりそう。


盛多:では決めていきましょう。大賞に『庭を見る二人』。次に『ファスナー』、『私の声が嫌い』。どうですか?日高:私は『ファスナー』より『私の声が嫌い』の方が、評価が上です。もちろん好みはあるでしょうが。「声」を扱っていてチャレンジしているので。


町田:手話もあるし。


香月:順当だと思います。


松尾:『私の声が嫌い』が2位でいいです。


町田:そうですね、いいと思います。


盛多:では、大賞が『庭を見る二人』。優秀賞が『私の声が嫌い』『ファスナー』で決定します。


以 上



 

2024年10月20日 福岡市中央区赤坂


審査委員:香月隆・盛多直隆・松尾恭子・日高真理子


実行委員:町田奈津子


 


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