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第二十回南のシナリオ大賞最終審査会ドキュメント

5 時間前
読了時間: 41分
第20回南のシナリオ大賞 最終審査会ドキュメント


第20回南のシナリオ大賞最終選考にあたり、二次審査通過作品を改めてご紹介します。


  1. テイクオフ~あの空へ~

  2. あれが聞こえてしかたがない

  3. 渡されたもの

  4. サトミ

  5. カレーうどんのシミの消し方

  6. 初恋セラピー

  7. 最後のスジ

  8. 踊り子は幻

  9. 崇福寺まで



【テイクオフ~あの空へ~】



松尾:今回の最終審査に残った作品についてはどれも完成度が高くシナリオとして読みやすい作品が揃っていると思いました。

こちらの作品もそうで、人生に迷っている孫に認知の入ったおじいちゃんが昔の体験を思い出して孫の背中を押すというわかりやすい設定でした。南のシナリオ大賞はドラマとすると短いんですよね。その短い中で、設定がわかりやすい物語であり、音で聴いてもわかりやすいという部分では完成していて、よく出来ている作品だと思いました。おじいちゃんとお孫さんなので、役者さんが演じても聴いている人が混乱しない点もいいところだと思います。

 

日高:明確に主人公の成長物語を描いているところが良いところでした。海外赴任を迷っている孫へ後押しをしたのが、認知を患っているお爺さんだという点もいいなと思いました。

気になる点としては、SEに“夏の空気感”というのがあるんですが、想像するに、蝉の鳴き声などの夏らしい音なのかなとは思いますが、SEにそう書くのはどうなのかなと思いました。あと、SEで、~高い上空を飛ぶ飛行機音。夏の空気感。玄関の音~からの「ただいまー」って聞くと、飛行機で帰ってきたのかな?と思うじゃないですか? でも、実際は高速バスで帰ってきている…その後、おじいちゃんが飛行機音で昔の記憶を思い出すシーンがあるので、その伏線かなとは思いますが、初めて読んだ時はピンときませんでした。モノローグも説明し過ぎな所と足りない所があって、チグハグな感じを受けました。例えば、会社のシーンから「ただいまー」と繋がっていますが。その前に、(長崎に帰ることにした)というようなモノローグがあってもいいのかなと思いました。あとは、皆が優等生すぎるというか、いい人過ぎるという感じで捻りがないなと。そういう点でインパクトに欠けると思いました。

私がこの主人公の母親世代だからかもしれませんが、認知のおじいちゃんをひとりで介護している母親に対しての気遣いみたいなものが(主人公に)欲しかったなと思いました。


皆田:今、日高さんも言われましたけど、毎回、ラジオなのに、「え?」というところがありますよね。“夏の空気感”もそうですが、おじいちゃんのやり取りの中で(窓の外の青空と入道雲を見つめて)という部分もあるんですよ。

 

松尾:映像のシナリオなんですよね。

 

皆田:そうですね。この作品に限らず、いまだに映像のシナリオがあります。

この作品の中にも他にも映像のト書きがあります。

作品内容については、ありきたりだなと思いました。先が読める展開だし、心は動きませんでした。主人公の美咲が、25歳の女性として認められて海外に行けるって、すごく嬉しいんじゃないかなと思うんですよね。ただ、彼女はそういう性格なんだな…迷うんだなと思ったんですけど…長崎から離れて福岡かどこかに出てるんですよね?だったら、故郷を離れる時もあれこれ迷ったとか、彼女の性格なり生き方を前に描いておかないと、じいちゃんとのやりとりも、羽ばたいていこうという決心になっていかないんじゃないかな。そこに心が動くんじゃないかなと。あの彼女がこういうふうになったという前段階があって、感動するんじゃないかと思いました。あと、(母親が)買い物に行く時に「何か食べたいものある?」と聞いて、長崎と言えば『ハトシ』とか『カステラ』とか、こういうセリフ要るかな?と思いました。

 

町田:上手にまとまっていて、起承転結もきちんと描かれていて、(作家は)慣れている方だと思いました。扇風機の音や雷雨から祖父が、昔パイロットだった時の記憶に繋がっていく設定や、嵐の中の切迫した雰囲気と緊張感も伝わって上手くまとまっています。

ただ、この物語を読んだ時に、ラジオドラマ云々ではなく、美咲が企業から海外プロジェクトチームに選ばれる人材には思えなかったです。

「こんな大きな仕事が私に出来るのか」と躊躇していますけど、一人でやるわけではなく、若手社員数名がいるチームの一員としてだし、きっと仕事がバリバリ出来るような人が選ばれると思うんですよね。「私はちょっと…」というような消極的な人材を企業が選ぶのかな?と不思議に思いました。

なので、海外に行くことを躊躇する枷が弱いと感じました。例えば、海外の仕事の責任者を命じられたとか、ひとりで認知症の祖父の介護をしている母親を置いて行っていいのだろうかとか、そういう強い枷があったほうがしっくりきます。あと、二次の審査員が「認知症の描写についての繊細なグラデーションがあると説得力が増す」と指摘されていますが、私もそう思いました。

 

盛多:説教臭いんだよね。背景が作り込まれてないので、おじいちゃんがクリアになった瞬間から「もういいよ」と思っちゃうんですよ。ラストに向けて、おじいちゃんが言うセリフが、全部説教臭く聞こえてしまう。

こういう形で終わらせるのか…例えば、おじいちゃんが認知症だったら、認知症のまま、やっちゃえよと思うところが根本的にあります。終わらせる為に、おじいちゃんが説教の羅列でくるんでね。物を人に伝える時に、説教って嫌なんですよ。それをやっちゃってるっていうのが、マイナスポイントになってる。

よく出来ているけど、もう少し背景を作り込まないと。作家が最終的に終わらせたいから、こうなっちゃったのかなというのが薄々感じた作品でしたね。




【あれが聞こえてしかたない】



町田:今までなかった題材をラジオドラマにしたという着眼点が面白いと思います。作家さんは配信に関わっている人かなと思います。ワンシュチュエーションで単調なドラマになりがちなところに出てくる喫茶店のマスター。彼が最高に面白い。マスターがいないと、この作品の魅力は半減してしまいます。もしラジオドラマにするとしたら、喫茶店のマスターの人選が一番大切だなと思います。「あれが聞こえてしかたがない」というタイトルは意味深で引きつけますよね。面白いけど、南のシナリオ大賞の大賞作品として、他の8作品と比べた時に心に残ったかと言うと、大賞ではないなと思いました。

 

皆田:こういう設定は面白いと思ったんですが、最初に読んだ時、「なんだこれ?」と思いましたね。誰に何を伝えたいのかな?と思って…ディレクターの祐一が「句読点もちゃんと読んで」と言うんですが、なぜ、そう読むのか?ということは祐一から朔に説明がされない。ここもちょっとわからないし…マスターがすごくいい声なんですが、そこに関しても(誰が演じられるのか)声も雰囲気も想像ができないんですよ。ドラマとして「あーそういうことか」というオチがあればいいんですけど、ありますかね、これ?

 

日高:「そういうことか」っていうところは全くなかったですね。

 

皆田:どうして高校生の男の子達がこの配信をやりたいのか、僕にはちょっとよくわからなかったですね。

 

日高:音声配信をしようとする高校生の男子二人の物語で、オーディオドラマとしては、時代にキャッチ―でもあるし、面白い題材だなと思いました。朔と祐一のキャラが対照的で、そこもいいところかなと思いました。

声のいいマスターの存在がアクセントになっていて、古いですけど、ジェットストリームの城達也さんか細川俊之さんのような低音のいい声の人がいいなと思いました。そうなったら、完全に主人公の朔をくっちゃうな、そんなんでいいのか?とも思ったりしました。

で、ラストがですね、主人公の悩みというか、引っ込み思案な自分を開放したいと思って音声配信にチャレンジしたんですよね?それがラストではっきり開放した主人公が描かれているわけでもないし、そもそも何度も出てくる「嘘あの人またしてるのもう嫌」というセリフの意味が全然ピンときませんでした。そこが残念なところかなと思いました。

 

松尾:私はこの作品は大好物です! 私は普段、高校生と一緒にいるので…高校生ってこうなんですよ!「結局何がいいたいの?」と聞いても、別にないんですよ。主人公の朔は引っ込み思案な自分を開放したいと思っていて…思春期のジレンマだとかを何かを使って自己表現したい。で、今、ユーチューブで配信したり、デバイスを自分で持てる時代になっているので、LIVE2Dとかでも、違うキャラで声だけ自分が喋べる。だから言いたいことが言える。そういう表現をしている子らはとても増えています。なので、私はこれはリアルだと思いました。大人から見たら「何しようと?」と思うようなことを、高校生の二人は一生懸命やってて、マスターもいい大人なんですが、二人の他愛ない時間に付き合ってあげてるんですよね。コントとして後半になるにつれ、クセを強くしていけば、音として面白い作品になると思います。

南のシナリオがどこに向かおうとしているのか?ということは毎年、伺ってはいるんですが、ターゲットはご年配なのか、それとも不特定多数の方達なのか。

これはどこの世界でも問題になっているんですよ。話は逸れますが、私、生け花をやっているんですが、展覧会をしても生け花をやっている人しか来ない。後継者問題も発生してます。新しいお客さんが来ないんです。それは新しいお客さんに向けての「こういうものがあるんだ。面白いね!」というものを作ってないからなんです。なので、20代、30代の若いリスナーを引き付けようと思ったら、私はこの作品は、そういう層を引っ張る為にはアリな作品だと思います。


盛多:こういう形のドラマって新しいという感覚にはならなくて、ずいぶん前にいっぱい聞いてきたなという気がするんですよ。要するに、雰囲気を伝えるという言葉でまとめてしまったらマズイかもしれませんけど。

今、松尾さんがお聞きになった「誰をターゲットにしているのか?」ですが、不特定多数としか答えようがありません。ただ、この物語をわかってもらわなくちゃならないということを大前提に考えています。この作品は消化不良なんですよ。高校生向けに作るとかいうそれはなし。不特定多数向けに、わかってもらうということを考えたら、やっぱり(この作品は)消化不良なんですよ。

全てが消化不良なんですよ。マスター、セリフ、高校生の2人。この人達が何者かわかんないんですよ。相手に伝える時に、例えば、この高校生は進学校に行ってるのか、偏差値の低い高校に行ってるのかとか、マスターは何者なのか?魅力的なんだけど、何者かがわからない。それをラジオドラマとして作るというのは、僕の中では抵抗があります。SEの指定がト書にしか見えないんですよ。この作品を賛成するのか、否定するのか迷ったんですが、僕の中ではわからないというのが感想です。魅力的ではあるけど。




【渡されたもの】



松尾:長崎は戦争に結びつきやすいと思うのですが…すみません、個人的に私は戦争ものがダメなんです。戦争というものに対して感動とか美しいとかはないと思っています。とはいえ、きちんと書かれた作品であるので、きちんと読ませていただきました。重たいネタではありますが、今を生きている若い人(主人公)が戦争を体験された人と接することで、気持ちが動いていくという設定の流れがよく描けていました。作品としては素晴らしいと思いました。

 

日高:私はこの作品が最終選考の中で一番感動しました。ラストがジーンときて「そうだったのか…」と思いました。電車の中で出会ったきれいな女の人が、実は昔、原爆に遭ったヨネさんの妹の和子だったということが、全く予想がつかなくて、それが開かされた時に驚きました。こういうふうに予測しなかったことで驚かされるのって一種の快感なんですよね。だから、「あーそうだったんだ」と思って感動しました。長崎の原爆を題材にした作品は重いですけど、九州の賞としては相応しいのではないかと思いました。

気になった点は、電車の中で主人公の遠藤と和子がお互いのことを「お兄さん」「お姉さん」って呼ぶんですよね。これって普通ですかね?近くに座っているのに、「お兄さん」「お姉さん」って要らないんじゃないかなって…そこが気になってしまいました。最後、主人公の遠藤が8月9日の原爆が落とされた日に有休を取って、いったい何をするんだろう?と思いました。

 

皆田:慰霊祭に参加するんじゃないですか。(そうでしょうねの声あり)

 

皆田:僕は、「またか…」という感じで…和子さんは幽霊ですよね?幽霊ものって、不思議でほんわかした感じになったりするんですが、僕はこれ、ちょっと恐いなぁと思いました。捉え方を間違えているかもしれませんが、和子さんは被爆したんですが、怪我はなかったんですよね。ただ、周りは大怪我して死んだりしているのに、お前だけと言われて、肩身の狭い思いをして、東京に出て行ったっていう話ですよね?(東京では)田舎者と思われたくなくてお洒落をしていた…被爆者って差別を受けたりするから、長崎出身ということも言わないようにして、東京出身者のように振る舞ったりしていたのでしょう。

僕は彼女の怨みつらみの苦しい人生を読んでいて辛かったなぁと。原爆に興味がなかった遠藤君が目覚めたという話になるんですが、僕はなんか楽しくないなぁと思ってしまったんです。話は違うんですが、週に一度くらい天拝山という山に登るんですが、スタートから頂上までに句碑が11個あるんですが、全て怨みつらみばかりなんですよ。登りながら辛くなります。「飛ばされたけれど、この地で頑張るぞ!」というような句がひとつもないんです。


この作品を読んでそんな感じを受けました。被爆者だから泣き言を言いたくなるのは当然ですが、逆に、和子さんが東京で明るく…そんなことは出来ないんだろうけど…でもまぁ、東京育ちの遠藤君は部長から長崎で仕事をするなら原爆を知っておかないと、と言われても興味がわかなかったのに、和子さんに出会ったことで原爆というものに興味を持った…これから遠藤君はどうなっていくのかなぁと思いました。

 

町田:私は、この作品を戦争ドラマというより、もっと違う想いで読みました。

この中に「不幸自慢」という言葉が出てきますよね?和子さんは被爆しているけど見た目や身体には怪我やケロイド等の症状が一切なかった。周囲の人達から「あんたはいいねー」と言われ続けて、それが嫌で東京に行ったと。和子さんは見た目に傷がなくても、心には大きな傷を抱えていたんですよね。

心に大きな傷を抱えていても見た目にはわからない。現代でもそうですよね。

うつ病や精神的な病を抱えていても、見た目にわからないから伝わらない。でも、本人はとても苦しい。そういうことがあるから、日本では若者の自殺者が増えてます。私はこのドラマは見えない闇を見せてくれていると思いました。

そういう面では深い物語だなと思いました。

残念だなと思ったところは、最後に和子さんの手紙が出てきて、やりたかったことを叶えてもらって嬉しかったとありますが、和子さんのやりたかったことというのは―オシャレをして誰かに褒めてもらったり、同世代の人とおしゃべりをしたり―ですよね。だったら、遠藤君が和子さんのワンピースを褒めた時に、サラッと「嬉しい」とは言うんですが、幽霊になってまで叶えたかったんだから、もっと感極まって言葉に詰まるような部分が出てきてもいいんじゃないかなと思いました。ラストで和子さんが感極まった伏線が解けるので…。

 

盛多:この作品を読んだ瞬間に思ったのは、浅いと思いました。今さら原爆の紹介かと。「戦争はやってはいけない」というメッセージは聞き飽きたと思ってて、戦争についてのメッセージとか不幸自慢とか、町田さんの絡みもあるんだけど、僕はその言葉を出す意味がよくわからないんですよ。今さらこの話をするのかと。今まで戦争について伝わってきたことをそのまま言葉として出してきて、深みまで入っていないので…。

基本的に、僕は戦争ものが嫌いなんですが、(戦争もので)一番心に残っているのは、井上ひさしの「父と暮せば」のワンシーンがあるんですけど、娘は生き残ったんですよ、壁一枚で。原爆の影響を受けずに生き残ったんです。壁一枚向こうにいたもうひとりの娘は原爆で死んだんです。その中のシーンで原爆で死んだお母さんが出てくるんですけど、生き残った娘に対して言ったセリフが、「あんたが死ねばよかったのに」です。これが強烈だというのと、そういったセリフが出てこないと深みに入れない…というのをすごく感じました。

最近の戦争もののテレビドラマで一番残っているのは、丸谷才一の「笹まくら」が原作の「戦争を逃げた男」です。なぜ、逃げたのか?というところと、逃げて生き残ったんです。そしたら、職場で噂されるんです。「あの男は戦争から逃げた」と…だから、その辺のところを描かないと、言葉だけで攻められてもと思いました。僕は浅いなという感想が大きかったです。




【サトミ】



日高:非常に上手いなぁという印象です。うまくて憎たらしいくらい(笑)。

ラスト温かな気持ちになって、最初からセリフのテンポがよくて、それぞれのキャラクターがはっきりしてますよね。主人公のおじいさんの道夫のセリフも上手いし、笑わせるところもあるし、シャケ弁の設定もよく効いているなという感じで。AI…まさに今の時代ですよね。AIの見守りシステムの声がいつのまにか亡くなった奥さんの里美の声になるところもラジオドラマ的で、非常に上手い。気になったところは…これ、私だったらですが、亡くなった奥さんの里見がよくできた女房過ぎて、幼くして息子の勝彦が亡くなった時に、奥さんに寄り添わないで(道夫)が逃げていたんだと謝った時に、里美が怒らないで許しちゃうんですけど、ここは怒ったり泣いたり感情的になってもいいんじゃないかと思いました。AIとの対比もあるし…その後「でも、いいの。今、私、勝彦と一緒だもん!」と言ってもよかったんじゃないかなと思いましたね。

非常に好きな作品でした。

 

松尾: AIと介護とという切り口で、今、現状を上手く映し出しています。

介護って重い話になりがちなんですけど、ちょっとライトで主人公達が誰も傷ついていない展開で優しい気持ちになれる物語だと思いました。

ただ、ひとつ思ったのは、以前も(同じようなものが)あった気がしたんです。

何かありましたよね?この設定的な物語が…亡くなった人が…。

 

日高:「Perfectワールドへようこそ」ですかね?バーチャルな世界でデートしてたんだけど、実際に会いに行ってみると、その人は亡くなっていてという。


松尾:それのAI見守り版みたいな。でも、作家さんはそれを知らないので、純粋な気持ちで設定を書かれていると思うのですが…。

でも、今という切り口を上手くお料理されていると思います。聴く人も、作品としてバランスよく皆さん聴けるんじゃないかなと思います。

 

皆田:見守りシステムっていうのは実際にあるの?

 

松尾:あります。赤ちゃん用とかペット用とか老人用とか。

 

皆田:昔、お袋が使っていたもので、ボタンを押すと市と繋がるみたいなのはあったと思うんですが、これはいきなり「おかえりなさい」って言うんですよね?(あると思いますよの声多数)

それはこっちから聞いての返事じゃないですか?このAIは家に戻ったら「おかえりなさい!血圧上がってます」とか言うじゃないですか。

 

松尾:市場に広まってないだけで、あると思いますよ。

 

盛多:僕もジェミニを使っているんだけど、一定期間使わなかったら、「これやって」と打ち込んだら「久しぶりですね」と言われてびっくりしたんだよね。


皆田:あるだろうなとは思ったんですけど、いや、あるでいいんですが、僕が思ったのは、道夫が初めてじゃないですか?AIが喋ったら絶句して「何だ?」と言ってるでしょ。「今日からだからね」と娘のセリフがあれば、わかるんですけど、本人が知らないっていうのが、どうもね、違和感がある。

 

日高:でも、その後の娘のセリフで「もうお父さん説明したじゃない!」ってあるので、娘は最初に言ってると思いますよ。

 

皆田:まぁ、僕はそこがちょっと変だと思ったのと、奥さんの声に変わるっていうところがですね…映像ならAIに「うるせえな、お前」と言っていたところ、奥さんの声に変わるでしょ?そこをラジオでどうなんだろうなと思いました。(わかりにくいので)もうちょっと推敲したらよかったんじゃないかなと思いました。最後、息子の名前にしたじゃないですか?三人でご飯を食べるって言っていますけど、息子の名前に変わったAIが時々お母さんに変わるってこと?それで三人ってこと?

 

町田:声はカツヒコのままで終わっているから、声はお母さんには変わらないですよね。三人でというのは、仏壇にいる奥さんとということじゃないですか?

 

盛多:まぁ、そうでしょうね。

 

皆田:で、道夫さんは、このAIと一緒に暮らしていくっていうことですかね?

なんとなく(AIがいると)落ち着かないなぁと言う気がします。

 

日高:皆田さんが落ち着かないんですか?

 

皆田:初め、カタカナのサトミが話していて、途中、奥さんの声にかわるじゃないですか?彼はどこに向かって話しているんだろうとか、面白い話だけど、状況がなかなかストンとこなかったです。

 

日高:別にAIに向いて話してるわけじゃなくて、(道夫は)あっち向いたり、こっち向いたりして怒鳴っているイメージですけどね。

 

盛多:うちも娘はスマホをその辺に置いて喋ってますけどね。それで対話が成立してるんで「お前、ヤバくねぇか?」と娘に言ったら、「それが常識」と言われました。(AIとの対話は)僕らが思った以上に進んでるかもしれないですね。

 

町田:私はこれを不思議とか思わなくて、スッと読めました。私は9作品の中でこの作品が一番好きでした。

セリフ・ト書・モノローグが全て上手い。まず、最初のコンビニのシーンで道夫のキャラをはっきりさせてますよね。(お酒を買って)「年齢確認お願いします」と店員に言われてますけど、これ、毎回言われていると思うんですが「俺が未成年に見えんのかよ!」と怒鳴る。これが道夫なんですよ。ここで初めにしっかりと道夫ってこんな人なんですよ、頑固ジジイなんですよと描いていて、その後、娘が父親を心配する気持ち、亡き妻の名前と同じAIとのやりとり…15枚のシナリオでここまで話を入れるって腕がないと出来ないと思います。

そして、この15枚の中に、ひとつも要らないシーンがないんですよ。シャケ弁当も必要だから出しているし、全ていいと思います。最後に(AI)を息子の名前に変えたところも良かったと思いました。多分、道夫はもうそんなに長く一人暮らしは出来ないと思うんですよ。最後に息子に語りかけていく日々になるのかなと思いました。私は、この作品は大賞として、ラジオドラマで聞きたい作品です。幸せのおすそ分けをいただいた気分になりました。

 

盛多:おっしゃる通り、この作品が9作品の中で一番の作品だというのは、そう思うんですよ。AIも入れてるし、介護も入れてるし、今の状況を上手く取り込んでいるというのもわかるし、しかも、AIに死んだ奥さんと死んだ息子の名前を出してくるというのも、慣れているなというのがよくわかりました。多分、一番でしょうけど、気になっていることが一点あって、セリフが残んないんですよ。つまり、この状況の説明をしているセリフばっかりで、頭の中にセリフがどうも残らなくて…例えば、子供が亡くなったのに、お父さんが「短い間だったけど」と。このセリフは何?と言うのを感じた時に、もっと迫るセリフはどっかにないかと探したんですけど、上手く書かれている分だけないんですよね。全部キレイなんだけど、セリフが残らないという感覚はありながらも、この作品が一番だとは思っています。

セリフが状況を喋っていると役者は楽なんですよ。感情的なセリフほど役者には難しいんで。その部分がないんで、スーッと通って、スーッと作れるなという妙な感覚が残って、今、(ここまで)きています。繰り返しますけど、この中で一番よく出来た作品であることは否定しません。

 

 

【カレーうどんのシミの消し方】




皆田:ちっちゃい話なんですけど、僕は好きでした。ありがちといえば、ありがちなんですけど…英太はクリーニング屋に勤めていることをなかなか同級生に言えなかったんだけど、だんだん仕事への誇りが芽生えてきたみたいな。終わり方がまたいいかなと思いました。(この作品について)特に疑問に思うところもなかったし、短い間の小さな物語ですけど、僕は好きでした。

同級生から「今、何してるの?」と聞かれても英太は「転職してる」とか言って話をごまかしたりしていたんですけど、カレーのシミ取りの出来事があって、堂々と自分の職業を言えるようになったという、彼の変わっていくところが好きだなぁと思いました。

 

松尾:他愛ない同級生の中の会話で、(英太には)他の人がキラキラと見えてて、自分が情けないなと、自分で自分を卑下している男の子の話で…彼がクリーニング屋に勤めようと思ったところは、彼なりのキラッと心に引っかかるものがあったんですよね。『どんなシミでも消します』というクリーニング屋のキャッチコピーに心惹かれるものがあって…実際、自分がシミ取りをすることで喜ぶ人がいて、誰かのお役に立てているということで、本人の自己肯定感に繋がっていくところが温かいなぁと思いました。スケールは大きな物語ではないですけど。「今、何をしているの?」と聞かれた時に、今、自分が何者と言えない人って実は多いと思うんです。リアルに勤めている企業の名前を出せる人が…今はフリーで仕事をしている人がいっぱいいるんで。だから、そういう時あるよねという寄り添いが感じられるなと思いました。

 

町田:爽やかな青春ものとしていいなと思いました。他人と自分を比べて自分を卑下してしまう気持ちがすごくよく描かれているなと思いました。

佳穂は、いつもシミをつけてしまうのに、なぜ毎回カレーうどんを注文するのか解せないなと思ったんですけど、最後に、高校生の時に佳穂が浴衣にカレーうどんのシミをつけて、英太が一生懸命洗ってあげたというシーンがあったので、多分、佳穂はその時に英太を好きになったんだろうなと思いました。佳穂にとってカレーうどんというのは、英太と繋がるとても大切な思い出なのかなと。だから、実は二人は両想いなんだけど、シナリオの中ではまだそこまで言及していませんが、そういうところがほんわかして、29歳の恋愛にしては幼いけど、かわいい物語だなぁと思いました。

気になったこととして、文中に「太鼓祇園」と書いてあるんですけど、これ、多分、小倉祇園太鼓のことだと思うんですけど、私は北九州っ子なので、すごく違和感がありました。これ、北九州っ子からすると絶対に間違えてはいけないワードです!(一同笑い)もし、ラジオドラマになる場合には、この部分は訂正してもらいたいです。爽やかで素敵な話ですけど、ラジオドラマだということを考えると、アイロンの音などのSEが分かりにくいかなと思いました。

 

日高:カレーうどんのシミやクリーニング屋さんとか、そういう着眼点が面白いなと思いました。作者は、この話をどういうふうに思いついたのかなと興味が湧きました。何となくいい話だなぁとは思ったんですが、可愛いとか、好きだなとは私は思いませんでした。

いくつか気になるところがありました。冒頭の賑わう居酒屋での三人の会話での男性二人、英太と智也なんですが、これ、どっちが何を言っているかわかんないと思うんですよね。早い段階で主人公が英太であるということを示して、もうちょっと工夫してセリフの中で工夫するとか、英太のモノローグがないと、しばらくわからないまま進んで行くような感じだなと思いました。

ちっちゃな世界の話ですけど、まぁ、別に大きな話にする必要もなくて、自分の仕事に誇りを持つようになっていく流れはいいなと思いました。ただ、全体的にほんわかして、それだけかなという感じがしてしまいました。

 

松尾:私、この方は書き癖があるなと思ったんですよ。言い切って、もう一個付け加えるんですよ。多分、この方の喋り癖なんだろうなと思いました。

 

日高:実際の会話でもよくあることだと思いますね。

 

松尾:セリフを喋りながら書かれたのかもしれませんね。

 

盛多:ラジオドラマにしやすいなぁと思いましたね。それと同時に、セリフが全部同じに見えてしまうんだけど、恐らく芝居にしたら、色々なものが出てきそうな気がしますけど、物語が平たんに流れていて、この物語を引っ張る事件というものが、よくありがちな事件ばっかりなので、これを大きく動かす何かが欲しいなというのは欲としてありますね。

ただ、小気味いい作品になるかなという予感めいたものがあるんですよね。お決まりのストーリーでお決まりのパッピーエンドで終わっちゃったという感じで「これをやりたいんだ!」というものが見えないんで、作るとしたら役者任せかなという感想を持ちました。




【初恋セラピー】




松尾:これもいわゆる介護的なものがテーマで、恐らく豊後高田の『昭和の町』が好きで、描きたいなと思って書かれたんだろうなと思いました。物語にも昭和の世界観が違和感なく込められていて、痴呆の初恋の人とか、その娘さんなどにすごく寄り添って描かれている設定だなぁと思いました。初恋の時の秘密的なものも織り込んであって、甘酸っぱい感じがします。介護の物語って、(聴き手が)自分がその立場になっていないとわからない部分もあるのかなぁと思いつつも、(介護をしている)立場の人はすごくわかるなぁと思います。介護をする家族がいる人はリアルに感じると思います。介護って、本当に介護した人しかわからないんですよね。家族に対しての苛立ちとか、愛だけじゃ(うまく)いかないことも必要になってきますし。シュチュエーションとかは絵が浮かぶし、九州っていうモチーフを上手に取り組まれているなと思います。

南のシナリオとして、いいシーンやテーマを持ってこられたなと思います。

 

日高:タイトルがロマンチックで素敵だなぁと思いました。いい話にまとまってるとは思ったんですが、ちょこちょこ気になるところがあって、そのせいかあまり感情移入できませんでした。

そのいくつかは、正雄と節子の二人の会話に、やたらと正雄のお母さんが出てきて、キスを見られたとか、節子がお母さんと一緒に正雄を見送りに行ったとか…やたらとお母さんが出てくるなと思ってちょっと違和感がありました。

正雄がおひとり様限定のバスツアーに参加したのは、大変だったお母さんの介護が終わったから疲れた心を癒されたいというのは、後からわかってくるんですけど…。あと、これはバスツアーなんですが、他の乗客の気配が全く感じられず、このバスには何人参加されているんだろう?と。二人の世界に入っているからいいんだろうけど、バスツアーの雰囲気が出ていないなぁと思いました。周りのガヤガヤの気配とかあってもいいのかなと思いました。

トラベルセラピーというのがあるというのはわかったんですが、昔の知り合いにバスの中で会ったとして、娘が、正雄に「一緒に食事をしないでください」とか、冷たく攻撃的なように正雄に接するんですよね。それは「ご迷惑がかかりますから」って言うんですが、そんなに知り合いとの会話や交流を禁止するものなのかなぁと思いました。むしろ脳が活性化されていいんじゃないだろうかと思いました。最後、数日後に節子がいる施設に正雄が訪ねていくんですけど、断られてもグイグイ行く主人公(正雄)がちょっと嫌だなと思いました。

そんなふうで、私としては、この作品をいいなぁとは思えなかったです。

 

皆田: これ、正雄さんはお母さんの介護の経験はあるんですよね。奥さんは?

 

盛多:それは僕も気になりました。(私も気になりましたという声あり)

 

皆田:気になりますね。最初、奥さんの介護をしていたのかと思いました。

高校一年生で初恋というのもちょっと遅いかなぁと。節子さんが60歳で認知って早いなと…1年前はまだ59歳ですからね。この内容だったら、70後半か80歳前後のやり取りな気がして…60で認知症って…ま、あるでしょうけど、ちょっと気になりました。

「今からでも約束ば守ってよかよね?」って、一緒になるんかな?

 

盛多:正雄はその気満々ですね。

 

町田:バスのクラクションから始まって、最後はバスのエンジン音で終わっていて、こういうところは計算されているなと思いました。上手に終わらせているなと。上手いんですけど、無難に終わらせているなというのを感じました。

私、知り合いに55歳で認知症になった人を知っていますが、返って若くで認知症になった人は、進むスピードが速いんですよね。そういう人がいるっていうのは、実際に知っているので、そこはおかしいとは思いませんでした。

正雄がお母さんのことを聞かれても、うーんという感じで隠すんですけど、亡くなったってなぜ言えないのかな?と。年齢から考えて亡くなっててもおかしい話じゃないと思うんですが、お母さんが認知症だったということを隠しているようなので、正雄も何か思うところが色々あったんだろうなと思いました。話を聞いていたら、肝っ玉母さんのようないいお母さんだったみたいなので、介護をしていて、変わっていく母親を見てるのが辛かったんだろうなと思いました。最後、節子さんの施設を尋ねて「今度は僕と歩こうよ」と誘って終わるのは話的にはほんわかしていい終わり方かなと思いました。お母さんを亡くして心に穴が空いたところに節子さんが入ってきたということなのかな?ただ、どうしてこの二人は結婚しなかったのかな?そこが描かれてないなと。なぜ結婚に至らなかったのか、遠距離恋愛であったとしても…そこに何があったのかなという想いが残りました。

 

盛多:ほのぼのしたいい作品だなというのはわかるんですが、優奈というこの添乗員の女(娘)が邪魔だなと思いました。いないとダメなのかもしれないけど、なんか邪魔だなという気がして、その感じがつきまとっているのと、この二人の背景が掴めなくなってきているんですよ。お母さんが亡くなったとしても、じゃあ(正雄に)奥さんはいたのか?とか…この二人の接点が思ったよりもよく見えないというのがあります。背景がもう少し書き込まれたらいいのかなというその辺の希望的観測があったのと、これをラジオドラマとして作ると言われた時に、あんまり魅力がないなというのは感じましたね。平坦でほのぼのしていい話って、正直いってメチャクチャあるから、そこにもう少し…。

この前、東京の方達と話した時に、テレビドラマの二次審査に入っていく時に、ひとつ共通点として、皆が言っていることがあって、確かにシナリオとして上手く出来ているというのは認めるんですが、見えないのは「俺はこれをしたいんだ!」「私はこれがしたいからこの作品を書いたんです!」という姿勢が見えないんですよ。東京の審査員と話していて「そうだよね」と言っている部分が、今回のこの9作品にもあるような気がしてて…。

 

松尾:キレイにまとまっていますよね。

 

盛多:まとまっているんだけど「私はこれがしたい!」というのが、ちょっと薄いかなと。いい話でハッピーエンドにして終わりにしてという作りが、どうも気になっちゃう。大き

く動かす事件を起こせよみたいな気がしますけどね。




【最後のスジ】




皆田:僕はこれ、一番好きです。ただ、この「スジ」っていうのは何なのかをどこかで入れないと、読む方はなかなかついていけない。ダイヤグラムを書くっていうのも、見たことない人も多いと思うんです。


AIが出した結果をノーチェックで通しちゃいけないと牛島が言うんですが、どうなんですかね? 今ノーチェックなんですか? で、AIが正解でアナログはダメかというと、事件が発生して、AIに全部任せるのは危ない、ということになる。それで定年は延長になりそうで、まあちょっと、おじいさん(牛島)からすると胸のすく思いが多少あったり、とか。そういうところも僕は好きです。

ただ、最初に言ったように「スジ」の説明をうまく入れないと、というのが大前提。読んでいけばなんとなくわかってきますけどね。


松尾:これ、最終選考作品のなかで一番素材にこだわった作品だと思います。鉄道オタクなのか(?)この作者じゃないと書けない物語。自分の知ってること、こだわり、好きなことを物語に落とし込む、そういう強さがすごくありますね。私も「スジ」って何だろう、「牛スジ」かな、とか色んな「スジ」を想像したんですが、ジワジワわかってくる。わかりやすさ、という点では説明が必要なんでしょうが。

職人さんのこだわりとAIの対比もすごくうまい。AIに任せきりでなく人間だからこそできるチェックが必要なんじゃないか。そういう問題提起もお話の中にすごく入っています。このところ実際に列車の事故が多いんですよね。やっぱりいろんなチェックがおろそかになっているんじゃないでしょうか。この作品は、頑固なまでの職人さんのこだわりが必要、ということを分かりやすく書いているし、力強さもある。知らないと書けない作品ですね。


時代性、情報もたくさんあって勉強になりました。ほんわかした作品が多いなかでのこの強さを私は評価します。

 

町田:私もこの作品は上位3作品の中に入れました。最初タイトルを見たとき、コンビニのおでんコーナーに最後まで残っている「牛スジ」の話かと思って(笑)。特に九州では「スジ」と言えばこっちですよね。だから最初、わかりにくくてピンと来るまでに時間がかかりました。そこはちょっともったいないと思います。AIに人間の仕事が奪われていく現代の問題を提起していますよね。今、コンピューターウィルスが問題になっているし、AIに任せきりというのは怖いです。


2次の審査員コメントに「酒が少し残っていたが」という箇所は無い方がいいとありましたが、確かに私もそう思いました。とにかくすごく良い話だけど、映像向きではあるかな。ラジオドラマ向きではないかもしれない。SEがちょっと難しいかも。スジを引く音とかページをめくる音とか…。あんまり想像ができない。ただ、とても引き込む力のある作品です。

 

日高:私も「スジ」は最初から説明されてなきゃ駄目でしょ、って思いました。物語は面白い。自分の仕事に誇りを持った頑固親父、それに対してAIに詳しくて効率を重視する若い(25歳)の女性、結衣。牛島はちょっと生意気に感じてる。その2人が対立する構図っていうのはいいと思います。物語が進んでいき、列車のアクシデントが起こり、それに2人で対応していく中で結衣は牛島を認めるようになっていく。牛島のやり方の方が正しい、と思うようになる。そういう流れはよく出来ていると思います。盛り上がりも緊迫するシーンもある。


ラジオドラマになったとき、スジを引く音ってどうなんだろう、って思ったりはしました。


それと、これは私の感じ方なんですが…、結衣が牛島の定年延長を人事に直談判するって言って出ていく時、牛島が「明日から女房と旅行なんよ」それに対して「1年後に延ばしてください」って言う。ここ、奥さんをあまりにもないがしろにしているって感じちゃって。牛島は仕事ばかりで家庭サービスなんてしてこなかっただろうし、やっと夫婦で旅行するって言うのに「1年後に」とは…。そりゃ牛島はいいですよ、仕事大好きだから。私は奥さんの立場になって、ちょっとガッカリです(笑)。これは男性が好きな話のような気がしますね。


盛多:これ「ちゃ」とか「き」がつくの、北九州の言葉ですよね。以前から、九州発のコンクールなのに何故方言を使わないのかと思っていて。だからこの作品はよく頑張っているなという感じがします。

ラジオドラマ化した時に、緊張感のあるのはこの作品だけです。事件が起こっている、しかも列車が衝突するかもしれないという危険、切迫している。この緊迫したセリフ、やりとり。これ面白いだろうっていう感じはします。専門用語が結構ありますね。確かに男性が好きな話かもしれない。




【踊り子は幻】



 

町田:SEがとてもラジオ向きだと思いました。祇園囃子やポリタンクに水を入れる音など。それとちょっと妖艶な感じもあって、祭りの夜の幻想的な雰囲気が漂っていて…。

踊り子の「てん」、後で12歳ってわかるんですが、大人びている。主人公の「与一」、この名前も今どきどうなんだろうって思ったんですが、初恋になるのかな、彼女に対してのドキドキハラハラが良く描かれている。息使いや体温が感じられるのがいいですね。12歳の男の子と女の子の違いがはっきりわかるところも面白かったです。私はこれ、好きな作品です。

 

皆田:これ面白いと思ったし、じいちゃんが「遊んでこい」っていうのも、いいなあって。ちょっと一昔前の設定みたいな気はするんですけど。僕はこれ、映像向きかなと思いました。彼女を見てみたいなという気がして…。そこがちょっと残念かな。

(旅一座が)30年後に来るって話ですけど、彼女にまた会いたい彼はじっとしていられなくて、帰って勉強すると言う。勉強して早く大人になって好きな時に会いに行く。すごい発想ですけど、今やらないときっと会えなくなっちゃうっていう焦る気持ちなんだろうなあ。面白い。12歳の男の子の気持ちなんでしょうね。僕はこのセリフ、好きでした。

 

日高:私もこの作品はいいなあと思いました。ラストが清々しく、若い2人のセリフが瑞々しくて…。私も体温を感じました。

踊り子「てん」がとても魅力的です。自分たちの踊りに誇り、自信を持っている。少年のことを、最初年齢を知らないから年下に感じて、ちょっと見下している感じも面白い。この「白川吉見神社」は実際にあって、水も湧いているんですね。30年に一度、旅一座が来るというのは作者の創作なのかな。祭囃子の音楽や歌があるのでラジオドラマを作る時にそこが大変かなとは思いました。

 

松尾:この方の原稿が好きなんですよ、わかりやすいし行間に情緒がある。書き方がとてもお上手です。

音を意識していて、最後までファンタジーな感じだし、セリフも無駄が無い。私、これはアニメーションに向いていると思いました。30年に一度、全国各地回ってるからそんなに間が空くのかなと思ったり…。

この白川水源って綺麗なところなんですよね。熊本の南阿蘇の入り口、自然が豊かで。で、そこでお祭りがあって小さい子たちの出会いがあって、おじいちゃんがお小遣いをあげて、ってシチュエーションがめちゃくちゃわかりやすい。よく完成された物語ですね。

 

盛多:最初に与一のモノローグがあって、「祇園囃子」の音色(ラジカセ)が流れる、ここでまず引っ張られました。祭りとか夜神楽とか取材していた時期があって。その時に必ずラジカセなんです。ああ、これだよなと思いましたね。

「与一」と「てん」という名前も古臭いと思いながらも有りだよなと思ったり。30年後おじいさんが95歳、生きてるかもわからない。まあ、いろんなこと一切無視してのセリフのやり取りなんだけど、それも有りだなと。好きな作品です。




【崇福寺にて】




松尾:崇福寺って長崎の唐寺で、私今年の夏に行ったんですよ。かなり有名なところです。ちょっと不思議なお話で、この吉田さんは本当に同級生なのか? 一方的に直美さんの事を知っていて、そしていなくなっちゃって。何だったんだろうなあ…と。

情緒、雰囲気を感じられる作品、感情に訴えかけるというよりは。そんな感じがしました。


日高:セリフのテンポがいいです。方言も効果的に使われているし。夫婦のズレが面白いですよね、せっかく一緒に来てるのに別行動しちゃう。でもそれも共感できるし、この夫婦にとってはそれが普通のようで。そして直美と吉田との会話もずれている。合っていそうで合ってない。 

途中までいいテンポでお話が進み、この「吉田」の正体は? と期待が高まって高まって、それなのに、ええっ、それで終わっちゃうの? と…。

最後の直美のモノローグが「わたしのふるさと。いつの日か戻って来よう」なんですが、曖昧な感じで、作者はこの作品で何を言いたかったんだろう? と思いました。

 

皆田:誰に何を伝えようとしている作品なのかなあ。夫婦の設定はこんな風、これからどうなるの?となって健一が現れて、何かするのかと思うと別に何もせずに「じゃあね」と去っていくんですが。

最後の「ふるさとに戻って来よう」というのも、今東京に住んでるんでしたっけ。こっちに帰って来るって言ってるのかなあ。よくわからなかったですね。作者が何を言いたいのか…。


町田:私は最初、これはアンジャッシュのコントみたいだなあと思ったんですね。そして2回目に読んだときに、もしかしたら吉田は霊だったのかもしれないと思って、崇福寺の中国盆のことを調べたんです。そうしたら「宗派や有縁無縁を問わずすべての霊を寺に招いて慰める」とあって、あの世の住人が買い物するための屋台や食堂を作ってあげてるんですって。だから吉田は霊かも、そう思って読むとちょっとまた変わってくるのかなと思いました。でも、もしそうなら、やはりどこかで何か仕掛けを入れていかないと。もっと深い話になったかもしれないのに、このままではちょっともったいないなと感じました。


松尾:お寺の住職が出てきて何か教えてくれるとかね。


町田:そう、「ああそうだったんだ―」っていう。


皆田:これ、直美が幽霊だったりして。


松尾:みんな幽霊とか。


町田:すべての人を受け入れるんですもんね、崇福寺って。


日高:そうなら、それがわかるように書いてもらいたいですよ。皆田:いずれにしても足りないですね。盛多:すっきりしないですよね。終わった瞬間に「これ何だったんだ?」と思いました。中途半端な感じがしましたね。それと、どうも同じシーンが何度も繰り返されているような印象がつきまとって…。もっとスッキリ明るく終われないものかと思ったり。


皆田:あらすじで「幻のような健一の姿は中国盆の灯りに紛れていくのだった」とありますね。


町田:それを読んで霊かもしれない思ったんです。


盛多:では、皆さんそれぞれ自分がいいと思う作品を3つに絞っていってください。




(作品と点数が出揃う)



盛多:「渡されたもの」と「カレーうどんのシミの消し方」はそれぞれ1点ずつ入ってますが。選から外してしまっていいものかどうか。入れた方に応援演説をしてもらいましょうか。「渡されたもの」から、日高さん。


日高:戦争物はどうしても受け付けないとか、今さらな感じがするという声もわかります。ただ私は、最終選考9作品の中で一番心が動いた。ジーンと来るものがありました。そういう力のある作品だということで点を入れました。この「戦争は良くない」という、言い尽くされたテーマに敢えて取り組んだことも評価しました。だって大事じゃないですか。


皆田:僕は「カレーうどんのシミの消し方」に点を入れました。クリーニング屋の青年が自分の仕事を恥じていたんですが、誇りを持つようになったというお話。そこがいいなと思って。女性は税理士になるからお金持ちになりそうで、もう一人の男性は華やかな世界で仕事をしている。そこに引け目があったんですが、いろいろあって、まあ彼女との恋も成就するかなという感じですかね。


松尾:私は「あれが聞こえてしかたがない」に2点入れました。これは私のこだわりで、こういう作品が好きなので。もう、コントのようですよね。あのタイトルをどう言うのか? すごく聞きたいです。私の賞があればあげたいくらいです。


盛多:はい。得点の上位3作品「踊り子は幻」「最後のスジ」「サトミ」の3作品から大賞をどれにするかの話し合いに移っていいでしょうか? 「カレーライスのシミの消し方」もラストに向かってのドラマは良かったですね。「渡されたもの」については、僕はちょっと浅いという感じを受けましたが。


日高:私は自分の良いと思うものに点を入れましたが、賞の選考は皆でやっていくものですから、異論はありません。ちょっと残念ですが…。


松尾:今回どの作品よく出来ていましたね。


町田:海外からも結構応募があったようです。


盛多:改めて。3作品から選んでいいでしょうか。


他全員:はい。


盛多:どうしましょうかね…。どうやって決めようか。


日高:決選投票?盛多:皆さん、どれを大賞に推すか言っていきましょうか。一人ずつ。松尾:「最後のスジ」。


日高:「踊り子は幻」。


皆田:「最後のスジ」。


町田:私はもう「サトミ」です。


盛多:ウーン、「踊り子は幻」かなあ…。2対2。ではもう一度、「最後のスジ」と「踊り子は幻」の話をしていきましょう。


松尾:テイストが全く違いますよね、この2作品は。


盛多:僕が「踊り子は幻」を推したのは、これ作りたいなと思ったんですよね。

いい雰囲気で作れそうな予感がする。ただ「最後のスジ」は最初から最後まで緊張感を持って突っ走れそうだから、大いに悩んではいます。


松尾:「踊り子は幻」の方は、もう原稿が完成してるんですよ。本当にもうこのままラジオドラマが作れるな、と思います。情緒があって情感があって。わかりやすくてファンタジーで。聞く人を選ばないというか。完成すればきっと良い作品になることもイメージできます。で、私が「最後のスジ」にしたのは、これまでの大賞受賞作品が、ちょっとファンタジーテイストが入ってる、去年もそうだったし…。なので、ちょっとここいらでドキュメンタリー的なエネルギッシュなものがドンと取ってもいいんじゃないかと思いまして。こういうテイストもあるんだよ、と。力強いものを今年は推したいと思いました。日高:松尾さんの言うこともわかるんですが。さっきも言ったように、スジの説明が最初に無いだとか、まあ言わばちょっと不完全な「最後のスジ」と「踊り子は幻」とを比べたときに、やっぱり完成されたものの方が大賞ではないかと私は思います。音も綺麗でラジオドラマ向きだしラストもいい。なんか凡庸ではない、一つの磨かれた綺麗な珠のような感じがしたんです。


皆田:この祇園囃子の掛け声というんですか、どんななんでしょう?松尾:沖縄調ですかね。


日高:実際にあるんでしょうか。


皆田:「最後のスジ」はちょっといじらないといけないかもしれない、「スジ」というのが何なのか。


日高:創作ラジオドラマ大賞などでも受賞後に直しはあると聞きますし。


盛多:まあセリフの流れからすると、ちょこちょことヒントは出てきて、スジを引く音もあるし。その辺の音の組み合わせとセリフでうまい具合には出来るかなという感じもあります。僕は初めから「スジとはこうです」というのはやりたくないんですよ。それと、北九州弁ですよね。その辺も確認しなくちゃいけませんが。

えー、皆田さんの「最後のスジ」を推すというのは変わりないですね。


皆田:はい。


盛多:町田さんがこの2つから選ぶとしたらどちらですか?


町田:私は最初からずっと「サトミ」なので…。この2つはそれぞれ全く違ってどちらも好きなんですが。選べない…。


盛多:どちらも選ばないという選択肢もありますが。


町田:うーん、「最後のスジ」の良いところは「今」を映してる、AIに仕事を奪われている現代を書いている。「踊り子は幻」の方はファンタジ―…いえ、ファンタジーではないんだけれど幻想的な感じで、たぶん女性が好きですよね。

男性が好きなものと女性が好きなものと分かれた気がします。選ぶとすれば…「踊り子は幻」かと思います。


盛多:どうしよう。


町田:確かにこのところ「踊り子は幻」みたいな作品が選ばれてきてますね、大賞に。


松尾:でも私、全然「踊り子は幻」を否定してないんですよ。シナリオの書き方も一番上手だと思うし。


町田:盛多支部長、制作する視点で選んでください。


盛多:…今若干「最後のスジ」に傾きかけているんですよ。松尾さんの言った「今までと違うもの」に魅力を感じるんですよね。


日高:両方とも登場人物が3人ですね。


盛多:難しいですね…。でも今「最後のスジ」に傾いているのは、これ挑戦できるなという気持ちが強いです。「踊り子は幻」の方は完成度が見えるので。専門用語が確かに沢山出てくるんだけど、「新幹線大爆破」なんて専門用語がどんどん出て来ながら緊張感が高まってくる。


町田:私はいいと思います。


盛多:すみません、まだ悩んでます。


日高:同じような作品が続くというけれど…。確かに去年の作品と、「最後のスジ」よりは「踊り子は幻」の方が似ていますが、別に続いても構わないんじゃないかと思いますけど。


町田:「最後のスジ」は今の、現代の問題点をすごく良く表していますね。


日高:そうですね。


町田:「踊り子は幻」の方は「今」でなくていいかも。緊迫したもの、手に汗握るようなものになるのであれば「最後のスジ」はいいと思います。


皆田:もう支部長一任で。


日高:そうですね。


町田:どちらを作りたいですか?


盛多:作りたいというのではなく。役者も演出も音響効果も挑戦できるのが「最後のスジ」です。「踊り子は幻」の方は、役者決めて演出すればもう出来上がっちゃうという感じ。冒頭の、ラジカセの「祇園囃子」の音には魅力を感じるんですが。

……「最後のスジ」で行きましょうか。


他全員:はい。


盛多:では大賞を「最後のスジ」、優秀賞を「踊り子は幻」、「サトミ」とします。




審査風景



第20回南のシナリオ大賞、最終審査会風景その1


第20回南のシナリオ大賞、最終審査会風景その2


  • 日時:2026年 10月25日

  • 場所:福岡市中央区

  • 審査委員(順不動):盛多直隆・皆田和行・松尾恭子・日高真理子・町田奈津子











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